知佳の美貌録「昇龍の刺青の伯父さん宅」

伯父さん宅に好んで出入りするのは決まって久美で、弟は怖気を奮い近づこうともしなかったという。
時代が変わり、スジの者を追い出す風潮が顕著になり、伯父さんは追われるようにして名古屋に出ていったっきり二度と生きて会うことができなかった。
かすかな思い出の中に刺青を背負った伯父さんがいる。 あれは暑い夏の日
伯父さん宅に行くとバスタオルを背中に羽織り縁側に腰掛け伯父さんが涼んでいた。
わたしを見かけると 「おい、久美が来たぞ。西瓜があったろう。切ってやれ」
こう、台所にいる奥さんに声をかけてくれた。
貧困にあえぐこの時代、自宅で西瓜を食べるなんてことはまずなかった。
それを気前よく、わたしのために出してくれた。
西瓜を食べている間、伯父さんはバスタオルを羽織ってじっと久美をみていた。
「美味しいか」 目を細めて聞く伯父さんに理由がわからずこう聞いたことがある。
「伯父さん、暑いからバスタオルとったら?」 暑いんだから脱げばいいのにと確か言ったような気がする。
後に聞いた話だが、こんなことをほかの人なら後にも先にも絶対この人に聞かなかったという。
それは昔スジの人だったからだ。
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