大盛りの飯にイカの塩辛添えで奉られ
冬子はこの時とばかりにイカの塩辛をどこへなりと樽の中からピンハネし隠す。 己にとって正真正銘の漢と決めた輝久に食わせより逞しくする為である。
山中から冬子を担ぎ帰った直後からの3日間、輝久は意識を失い眠り続けた。 その輝久があたかも暁闇から深夜に至るまで野に出て汗水流し働いてるが如く見せかけ、その実裏山の熊笹の中に隠し通したのは誰あろう、助け出された冬子である。
一徹者の金衛門を暇さえあれば搾り上げ膂力を残さないようにしつつ輝久の様子見に通う。
いくつもの座敷を掛け持ちし春を鬻いできた冬子ならではの技であった。
この日も金衛門が散々焼酎を浴び大鼾をかき始めると秘かに家を抜け出し輝久の元へ御大層に膳をわざわざ朱の風呂敷で包むようにして大盛りの飯とイカの塩辛を携え駆け付けたのである。
輝久が苦労辛酸し大盛りの飯を平らげ胃が張って仕方が無いから横になると、これまた痒いところに手が届くよう背中に回り胃の後ろを女だてらにせいぜい力を籠め揉むのである。
すげなくされても必死に食い下がる輝久
まるで子供が母親に向かって空腹ゆえのおやつをねだるが如くだ。 だが行き場を失って囲われることになった冬子にしてみれば輝久と同じく金衛門の存在自体からして怖すぎる。
あの漢の許しなく息子と言えど何かを勝手に与えたとあってはただでは済まなくなる。 下手をすれば追い出されるかもしれない。 冬子から見れば成る程輝久は金衛門に比べ可愛らしかったし何より年下が好みの冬子の性癖とピッタリ一致した。
それだけに可哀想だが輝久への金衛門の懲罰は何としても避けねばならないと思うに至った。
逃げ回る先に偶然通りかかったような顔をし、あの勘助が現れた。 癇癪持ちの金衛門の元に嫁ぐような格好で住まうようになった女とはどんな味がするか足入れしたくなって田圃の様子見がてら現れたのだ。
出戻りと聞かされていたので受け出してやることさえ約束すれば何がしかの金品を渡すだけで或いは野辺で味見させてもらえるんじゃなかろうかと勘助、田圃の桁で寝っ転がりマ〇をお勃ったてそに唾をたっぷりつけ擦り上げながら算用し始めた。