第9話“思いがけない一言” Shyrock作

「へぇ、なんどすか?」
「私も今夜だけ、名前で呼んでもいいですか?」
「そんなん当たり前どすがなぁ。うちだけ裕太はんて名前で呼んで、裕太はんが名前で呼んでくれはらへんかったら、うち、寂しおすがなぁ」
「ええ……」
「惠やおへんどしたら、どないに呼ぼと思たはったん?」
「どないって……」
突然そう切り出されて、私は困り果ててしまいました。
タクシー運転手を始めて以来、お客を名前で呼んだことなど全く記憶がなかったからです。
「もしかして今晩ずっと、うちのこと『お客はん』て呼ぼと思たはったんちゃう?」
「いいえ、いくら何でもそれは……」
「おほほほほほ~。いや、かなんわぁ~。おほほほほほ~」
女性は口に手を当てて、愉快そうに笑いました。
私もついつられて笑ってしまいました。
「惠て呼んでおくれやす……」
女性は真顔でそうつぶやきました。
私はためらいがちに小声でしたが彼女の名前を呼びました。
「惠……」
「いやぁ、嬉しおすわぁ。なんやどきどきするしぃ」
「でも、今日出会ったばかりの人を名前で呼ぶのは初めてなので、どうも照れますよ」
「そやねぇ。ふつうどしたら親しゅうなってから名前で呼ぶもんどすわなぁ。それはそうと、今晩、うちのようなものに付き合うてくれはっておおきにぃ」
第8話“湯上りの芳香” Shyrock作

窓からは武庫川が一望できて、天気も良かったこともありはるか遠くには六甲山が望めました。
女性は部屋の中央に敷かれた座布団には座らず、窓際から風景を眺めていました。
「ええ景色やわぁ」
仲居はまるで自分が褒められたかのように嬉しそうに女性と会話を交わしていました。
「こんなええ感じのとこで泊まるん、うち、久しぶりやわぁ。嬉しいわぁ」
「ごゆっくりお寛ぎくださいね」
私は女性から腰をかけるよう薦められましたが、着座は遠慮して立ったまま女性と仲居の会話が終わるのを待ちました。
しばらくしてふたりの会話が途切れたのを見て、私は仲居に話しかけました。
「仲居さん、すまないけど、もう一室用意してくれないかね?」
「今日はお客さんが少ないので幸いお部屋は空いていますけど……でも、お連れ様がいらっしゃるのによろしいので?」
「お連れ様って……ははは、困ったなあ。見てのとおり私は運転手でこちらの女性を宝塚まで送ってきただけなんだよ」
「そうだったんですか。分かりました。それではフロントに行ってお部屋をとってまいります」
その他連絡事項
Shyrock様からの投稿を読んでつくづく思います。
官能小説は様々あれどほぼほぼ現実にそう文体であり感心させられます。
流れが良いんですよ。 目をつむっていても情景が浮かんでくるような気がするんです。
知佳のブログの中で「美貌録」だけアクセスが伸びず対策にブロ友をと探し回りましたが現実の世界とはまるでそぐわない文章の羅列、あれを見る限りこのような文を愛読する人たちって余程世の中に対し不平不満を抱いてると思えて仕方がありません。
しかもその手の小説の方が圧倒的に人気を博している当たり書く方としても考えさせられます。 一般小説を読む人と官能小説とでは計り知れないほど隔たりがあるんですね。
探す方面と探す手法を考え直します。