掘割の畔に棲む女 ~掘割行きを避ける山にこもる~

二度と舞い戻るまいと我が子を連れ夜逃げまでした千里だったが、こうなってしまった以上嫌でも育児放棄され辛く苦しく淋しい日々を送らねばならなかったあの頃に立ち返ることで美月ちゃんや司さんとの楽しかった想い出を吹っ切るしかないと思った。
何もないと信じ切っていた山中をとにかくがむしゃらに歩き回ったことで千里は何時しか山中にだって何かしら楽しみがあることに気づく。
田舎町であってもそれなりに賑わっていた風に見えた掘割。 しかし千里にとって彼女のためを思って官憲に通報してくれた、あの店員さん以外人の心を持った人間に行き当たらなかったような気がしたのだ。
淋しいだの怖いだのと避けて来た深山幽谷にはまだそのような環境が残っているような気がしたのだ。 何年経っても変わらない想う心がそこにはまだ息づいているような気がしたのだ。
知佳の美貌録「夜逃げ そして転校」

だから学校の環境もまるっきり違った。 転校先の学校がもし、今まで教わってきた授業より遅れていたらボーッとして過ごせるが、進んでいたりしたらそこいらはまだ教わっていませんなどと口にしようもない。 隠れ忍んで引っ越して来たからには誰に聞きようもない。
疎外感を肌で感じながらもそうと悟られぬよう独学で教科書を読み学ぶしかなかった。 それはそれで辛かった。 久美は学業の傍ら弟のために家事をこなさなければならなかったからだ。 が、それにも増し そもこの時代はまだ広く社会などというものは習っていないし親も教えはしないから転校生であるがゆえによそ者として扱われ学校に行くとよそ者が紛れ込んだとしていじめられた。 いじめが治まるまで、諦めてくれるまでジッと耐えなければならなかった。
ただでさえ食うや食わずの生活を強いられ、やっと将来の見通しが見え始めた矢先に得体のしれない宿なし風の輩がいずこからともなく小集団に紛れ込んで徘徊しまくる。
表向き笑みをたたえながらその裏で某国で繰り返されてきた密告の類に似た排他的思想を親がさも憎らし気に語る。
テーマ : 女衒の家に生まれ・・・ 高原ホテル
ジャンル : アダルト
知佳の美貌録「覚えてますか?あの日のことを。」

産むだけ産んでおいて育てもらえなかった子供たちはただ生きる為このようなことをやった。 にもかかわらず世の中は大人のエゴで動いた。 ゴミ漁りもそうで、何かを見つけると大人が先にとってしまう。 弱いものの上前を力に証し撥ねる。 暴力は常に付きまとった。
幼くして夜逃げや路上生活を強いられた末に飯場(はんば)で暮らすことになった久美は弟の面倒を看るため、大人のやることは何でも懸命になって覚えた。
少しでも多く大人の役に立ちご褒美のお菓子をもらうとそれを自分はほとんど食べず弟に分け与えた。
その弟と今度は貧困屈でたったふたりっきりで暮らすことを強要される。
久美は保育園・幼稚園こそ通えなかったものの、園で教えているようなことはお菓子を手にいれたく、大人のやることを見様見真似し働いて何かを得てきたものだから必要上ある程度のことはできるようになっていた。 生きる為の基礎ができていた。
未開の地から都会の小 学 校に通うことになった。 無学の地から学校のある地に無理やり引っ越しさせられた久美だが、教えたことを覚えるのが保育園・幼稚園こ通っていたはずのどの子より聡かった。
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知佳の美貌録「明日を夢見て 地獄の始まり」

この地区のたたずまいは飯場(はんば)小屋の比ではなかった。
まず第一に借りてくれた部屋の壁が違った。
飯場(はんば)小屋のそれらは多くが組み立て式の軽量鉄骨造りであることから壁も外壁は鉄板で、また、木造であれば杉の板で隙間なく囲ってあったが解体した廃屋をかき集めて作られている賃貸のこの家の壁の板は不揃いで、隙間だらけで見方によっては表と裏が素通しのようなものだった。
一般的な古来の建築法でいうところのぬりかべ(真砂に短く切った藁を混ぜ、水を加えて練ったものを竹で編んだ格子の上に塗った保温・保湿に優れた壁)など材料がそろわず用いられようもなかったのであろう。 ともかく酷かった。
貧民屈とは行き場を失った得体のしれないものの集団。 久美たちは根が夜逃げしてきた幼い姉弟。 なもので始終どこからか見張られつつ寝起きする恐ろしさ。 疲れ切っているはずなのに眠れない日々が幾日も続いたという。
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知佳の美貌録「生涯一度だけの幸せな日々」

高原ホテルの主人公 久美がまだ幼かった頃、女衒は随分没落し女衒の持ち家は本家と散髪屋 (髪結いではない) の二軒だけになっていたようだが、夜逃げの末ここを訪れた久美にはそれでも近所の一般の家庭に比べたら随分と広い屋敷に住んでいたような記憶がある。
女衒家が最盛期だったころ3軒の家を持っていたと書きましたが、上の説明での散髪屋はどう見ても、構造上からも商売に使うだけのため建てられた家であり、3軒のうちの1軒に入っていない筈なので、一般的な民家風の家2軒はこの時点では既に人手に渡っていたものと見てよいとおもいます。
つまり好子が生まれ育った家は久美の記憶にある大きな屋敷よりさらに大きく、好子の話しと統合するとまず当時住むことを許された地区(部落と忌み嫌われ棲み分けされた地区)と位置や雰囲気が多少異なるからです。
今風に言えば産後の肥立ちが良くなるまで実家に里帰りしたことになりますが、その実ちゃっかり居候を決め込んで帰ってきており、元気になっても元いた場所に帰ろうとしなかったのです。
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