「人妻美穂と美大生」 第4話“衣擦れの音” Shyrock作


でも仕方がない。自分が撒いた種は、自分で摘み取る以外にないのだから。
自分にそう言い聞かせてはみるのだが、まもなくいまだ経験したことのないヌードモデルにならないといけないと思うと、胸の鼓動が激しく高鳴った。
(コンコン・・・)
「おじゃまします、山川です」
「ドア開いてるから、どうぞ入って」
昨日とはかなり違ったぶっきらぼうな返答が返って来た。
いささか不快に感じたが、今は我慢だと自分に言い聞かせ冷静さを保つよう努めた。
「失礼します」
「奥の方へ入ってきて」
声はするのだが小野原の姿は見えない。
脱いだサンダルを揃えて玄関から廊下へと入った。
少し廊下を進むと昨日話し合いを行なったリビングが視野に入ったが、そこには小野原の姿はなかった。
まもなく背後から少しかすれたような声が聞こえてきた。
「こっちだよ」
振り返ってみると向かい側の部屋で、小野原が気だるそうな表情でこちらを見つめている。
部屋には日用品等が散乱していてお世辞にも綺麗とはいえなかったが、部屋全体のインテリアコーディネートを白でまとめているところは、さすがに美大生の片鱗をうかがわせた。
「人妻美穂と美大生」 第3話“予期せぬ代償” Shyrock作


「謝って済む問題じゃないですけど……でも……本当にごめんなさい……許してください……」
管理人はその場に居づらくなってきたのか、まもなく「とにかく両者でよくお話合いください」とだけ告げて部屋から出て行った。
修繕業者も「配管や風呂場の防水に問題が無いのでこれで失礼します」と言って管理人の後を追いかけるように帰って行った。
原因者は自分であり被害者は階下の美大生なのだから、管理人や業者は損害賠償の交渉に介入するわけには行かない訳だから、早々と帰ってしまったのも仕方がなかった。
私は小野原に散々愚痴られ平身低頭して謝りつづけた。
油絵なら多少は水をはじくのだが、運悪く水彩画だったためかなり絵の具が滲んでいる。
乾いてもおそらく跡形が残るだろう。
家財道具であれば金額の高低はあるものの、金銭で弁償するか買い換える方法だってある。特に衣類であればクリーニングで済むものもあるだろう。
ところが、小野原が海外で描いたという絵はいったいどうすれば良いのだろうか。
金銭で弁償する方法しか浮かばなった私は小野原に提案してみた。
「小野原さん、お金で済む問題じゃないことは分かっていますが、その絵を弁償させていただけないでしょうか」
「人妻美穂と美大生」 第2話“アンコールワットの絵” Shyrock作


下の家はどれほどの被害なのだろうか……
洗濯機をかけたまま買い物に行ってしまったことを、私は深く後悔した。
(補償費用がどれだけかかるのか分からないけど、私が悪いのだから弁償はしなければ・・・でも額によっては恐ろしいなあ……)
洗濯機のホースから零れた水はほとんど吸い取ったのでもうこれ以上零れることは無いだろう。
「管理人さん、手伝ってくださってありがとうございました。もう大丈夫じゃないかと思うので、私、今から下のお部屋にお詫びに行ってきます」
「大変なことになりましたね。私も一応立会いをさせていただきますので」
「すみませんね。ご苦労をおかけしますがよろしくお願いします」
洗濯機による漏水事故が発生した場合、当事者である上下階の住民同士で話し合って決着をつけるのが一般的で、ふつうはマンションの管理人は立会いをしてくれないものだ。
しかし幸いにもここの管理人は親切な人で、階下の被害状況をいっしょに確認してくれることになった。
私と管理人は階下の小野原という男性の部屋を訪れた。
修理業者の出入りが頻繁にあるからか玄関ドアは開けたままドアストッパーで固定してある。
「人妻美穂と美大生」 第1話“14階と13階” Shyrock作


夫には特にこれといって不満はない。
仕事は真面目だし、ギャンブルもしないし、浮気だっておそらくしたことがないと思う。
むしろとても良く出来た夫だと思ってる。
でも私はそんな良人ともいえる夫を裏切ってしまった。
それはあの思いがけない出来事から始まった。
それはちょうど1年前までさかのぼる。
私は今、眺望の良いマンションの最上階14階に住んでいる。
その日私は洗濯機を掛けたまま、近所のスーパーへ買い物に出かけた。
洗濯機は全自動なのですすぎ終わると勝手に止まってくれる。
天気も良いので、帰ってからベランダに洗濯物を干すつもりだった。
買い物を済ませた後、スーパー近くのカフェでカフェラテを飲んでひとときを過ごした。
買い物に出かけてから帰宅まで凡そ3時間ぐらい過ぎただろうか。
マンションに戻ってみると、私の部屋の玄関前で人がたむろしていて何やら騒がしい。
3人の男性が部屋のチャイムを押したり、ドアをノックしたりを繰り返している。
(どうしたのかな?何の用事だろう……)
よく見ると1人は初老のマンションの管理人だったが、他の2人は見慣れない顔だ。