大盛りの飯にイカの塩辛添えで奉られ
冬子はこの時とばかりにイカの塩辛をどこへなりと樽の中からピンハネし隠す。 己にとって正真正銘の漢と決めた輝久に食わせより逞しくする為である。
山中から冬子を担ぎ帰った直後からの3日間、輝久は意識を失い眠り続けた。 その輝久があたかも暁闇から深夜に至るまで野に出て汗水流し働いてるが如く見せかけ、その実裏山の熊笹の中に隠し通したのは誰あろう、助け出された冬子である。
一徹者の金衛門を暇さえあれば搾り上げ膂力を残さないようにしつつ輝久の様子見に通う。
いくつもの座敷を掛け持ちし春を鬻いできた冬子ならではの技であった。
この日も金衛門が散々焼酎を浴び大鼾をかき始めると秘かに家を抜け出し輝久の元へ御大層に膳をわざわざ朱の風呂敷で包むようにして大盛りの飯とイカの塩辛を携え駆け付けたのである。
輝久が苦労辛酸し大盛りの飯を平らげ胃が張って仕方が無いから横になると、これまた痒いところに手が届くよう背中に回り胃の後ろを女だてらにせいぜい力を籠め揉むのである。