官能小説『蛇の毒』 第8章 (最終章) 三人の夜、三人の明日

守の間に栄治は風呂の水汲みを済ませて火を点ける。昨日の風呂はお湯の中で栄治が
出してしまったのでそのままにしておけなかったのである。
改札口で出迎えた靖子を見て母親の久美がおやっと言う顔をした。
「何、ママ。変な顔して。」
「ううん、何でもない。」
車の中でも久美は殆ど喋らなかった。靖子はそれが気になって仕方がない。
「ねえ、ママ。パパと喧嘩でもしたの。」
「何でそんなこと言うの。」
「だって、凄い不機嫌な顔してるんだもの。」
「そんなことはありません。それより、栄治は元気。」
「ああ、いつもの通りよ。毎日飽きもせず隠れ家とやらに登ってるわ。」
「そう。」
靖子は出掛けまで栄治と抱き合ってたのがまずかったかな、と思い始めていた。風
呂に入る暇が無かったので、何となく栄治の匂いがしてるような気もするのである。
「栄治、来たわよ。」
車から降りた久美が風呂の薪をくべている栄治に声を掛けた。
「あ、ママ。もう少しでお風呂入れるよ。ところで、何かお土産ある。」
「お土産って、食べるもの。」
「うん。」
「車じゃないから大して持って来れなかったわよ。ハヤシと肉まんと。そうだ、カ
ツサンドがあるわ。」