知佳の美貌録「墓参りの楽しみ」

ひとつだけというからには日頃食べたくて仕方がなかったお菓子を急いで選び店を出てくるかと思いきやそうではない。
買ってもらえることがうれしかったと解釈しそうだがこれまたそうでもなかった。 数多くのお菓子の中から好きなものをじっくり時間をかけてひとつだけ選べるというのが、途轍もなくうれしかったらしい。
防空壕のできそこないみたいな穴倉は立って歩くこともできないほど低かったし、奥行きも入り口から一番奥が見渡せるほど短かった。
そんな穴倉に周辺からかき集めた草などを布団がわりに敷きつめ寝泊まりした。
中で火を焚いたりすればむせて息もできなくなるほど狭く、もちろん抜け穴もないから煙突の役目も穴自体が果たしてくれない。
誰も通らなくなった深夜などを利用して外で煮炊きせざるを得なかった。
風呂はおろか水道もトイレも、もちろんない。
必要になると雨だろうがどこかに出かけ用を済ますしかなかった。 周囲から見れば野良犬かと思えただだろうが、ここにこそ幸吉は来ない。

テーマ : 女衒の家に生まれ・・・ 高原ホテル
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