官能小説『筒抜け』 第1話

突然頭の上から若い男の声が聞こえてきた。それは蚊の鳴くような微かな響きだったが、静かに湯船に浸かっていた弘信は十分聞き取ることが出来た。慌てて見上げると、その声は換気ダクトからのようだった。
「駄目、出ちゃう。」
もう一度、弘信が耳を澄ませていたので、今度は更にハッキリと聞こえて来た。切羽詰まった声だった。
弘信がこのアパートの造りを頭の中に思い描いた。メゾネットタイプの二階建て3DKが左右二世帯振り分けに幾つか繋がった構造である。見てくれはそれなりだが、地主が相続税対策に急遽建てたものだから実態はプレハブアパートと大差無い。恐らく風呂場の換気ダクトが隣とつながっており、そのダクトを伝って秘めやかな会話が漏れて来たことに間違い無さそうだった。
隣には三十代半ば位の女が中 学 生の息子と一緒に住んでいる。表札には田中とだけ書かれていた。入り口が道路に面しているので女所帯と知られたくないからだろう。玄関先でこの女と顔を合わせれば会釈くらいはするが、言葉を交わしたことは一度も無かった。この近所では一番と言える位の美人で、毎日夕方になると出掛けて行く。帰りは深夜だった。多分水商売だろう。
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官能小説『筒抜け』 第2話

「ああ。」
女が弘信の顔を思い出したようで、幾分表情を和らげた。
「ちょっとお話したいことがあるんですが。」
「こんな時間にですか。」
女がもう一度きつい目で弘信を睨んだ。
「いえ、今でなくても構いません。よろしければ明日の午前中に半日休みを取りますので、いかがですか。」
休みまで取ると言う弘信の言葉に女がちょっと考えてから頷いた。
「結構です。明日、お宅に伺いましょうか。」
「ええ。息子さんが学校に行かれたらいらして下さい。」
息子さんと言われて女が表情を硬くした。
「お嬢さんもいらっしゃらない方がいいかも知れませんわね。」
女にそう言い返されて今度は弘信が表情を曇らせた。女は弘信が何を言いたいのか察しているように思われたのである。
翌日、約束通り弘信は午後からの出社を会社に連絡して女が来るのを待った。美佳が学校に出て暫くすると玄関のチャイムが鳴った。
「失礼します。」
「どうぞ、お入り下さい。」
女が改めて田中晴美だと名乗った。弘信がお茶を出し、用件を切り出そうとすると晴美が機先を制した。
「お風呂場の、ダクトのことですわね。」
「知ってたんですか。」
弘信が驚いて晴美の顔を見詰めた。
官能小説『筒抜け』 第3話

「こっちから誘わないと駄目かも。」
晴美がそう言いながら風呂に湯を入れ始めた。湯の栓を止めると隣からも水音が聞こえていた。美佳も風呂の準備をしているらしい。
「じゃ、お風呂に入りましょうか。」
弘信の耳元でそう囁いた晴美が服を脱ぎ始めた。
「え、入ってる振りするだけじゃ駄目ですか。」
驚いた弘信が目を丸くして晴美を見た。
「無理よ。私、そんな演技できないし。貴方は俊樹になりきって。」
確かにお湯の中での戯れを演出するには実際に入るしか無さそうだった。二人で湯船に浸かると晴美が戯れて来た。前を握られ当惑する弘信だったが、声を出したり抵抗すれば隣の美佳に気付かれてしまう。晴美が無言でウィンクした。ね、今みたいな状況だったのよ、と言ってるようだった。
湯船の外で晴美が弘信に尻を向けた。晴美の気持ちに確信が持てぬまま弘信が宛った。入れた瞬間、ダクトから美佳の声が響いてきた。パパ、と呼ばれて弘信の動きが止まった。
「凄い、パパ、凄い。」
確かに美佳のあられもない声だった。
官能小説『筒抜け』 第4話

俊樹が修学旅行から戻るまでの毎晩、弘信は娘の切ない声を聞きながら晴美と抱き合う毎日を過ごした。二晩目からはすぐに果てず、出来るだけ長く晴美の感触を味わう余裕さえ生まれていた。美佳の方もそれに合わせているようだった。頭の中では既に晴美と美佳が入れ替わっていた。毎回、娘の「イクー」に合わせて果てる弘信に晴美が苦笑した。
ようやく俊樹が修学旅行から戻って来た。一週間ご無沙汰だったので当然激しく晴美を求めることが予想された。弘信はここ数日美佳の機嫌が悪いのが気になっていた。
会社を定時に切り上げた弘信が近所の公園で携帯を耳に当てて待機した。
官能小説『筒抜け』 第5話 (最終話)

美佳がすねてみせた。
「ごめんなさい、私が誘ったの。弘信さんのこと嫌いじゃなかったから。」
晴美が俊樹の方を見た。俊樹も面白くなさそうな顔をしている。
「今すぐどうこうって話じゃないけど、俊樹とはいずれけじめを付ける日が来るでしょ。」
「無理に付ける必要あるの。」
美佳が口を挟んだ。
「いずれの話だけどね。」
「嘘。晴美さんとパパ、違うシナリオを考えてたんじゃないの。」
「え、どう言うこと。」
「俊樹くんが久しぶりなんて言わなければ、パパが私のところに来る手筈だったんじゃないかしら。でも、昨日まで俊樹くんが留守だったことがバレちゃった。だからパパが慌てて帰って来たんでしょ。それに、パパが帰ってきた時、私素っ裸だったけど、パパ、不思議そうな顔一つしなかったじゃない。」
「白旗上げましょ。」
晴美がそう言って両手を上げた。
「降参だわ。美佳ちゃんがパパと思い通りになれば万事上手く行くと思ってたのよ。」
「それって、もしかして、私と俊樹くんをくっつけようって魂胆。」
「弘信さん、何か言ってよ。私じゃ美佳ちゃんには太刀打ちできないわ。」