落日の長者~ご主人の前でおっぴろげた希美さん~

原釜 (はらがま) 家も先代までは燐家と同じように家の周りに囲いなどありませんでした。 自宅の庭を畑にして野菜を植えるなど質素倹約に勤めました。 そうまでして貯めた財を可愛い息子に湯水のごとく注ぎ込んだんです。 ですので原釜 (はらがま) 家の長屋門も広大な庭園も寛治さんの代になって周辺の大富豪を見習って造成したんです。
何故かと言えばそれば近隣住民に自分のご威光を示すためでした。 そのご威光がかなったかどうかを指し示す物差しが寛治さんの場合女が靡いてくれるかどうかで、それも人様の女房を堕としめるほどに寝取らせもらえることだったんです。
例えば豊里屋 (とよさとや - 屋号) の埼松美代子さん、あのような何処でもかしこでも自分のために股を開いてくれるような女であっても誰よりも多く持つのが寛治さんの夢だったのです。
その美代子さんをご主人の前で寝取ったことが今日身分を危うくしたひとつの原因でしたが寛治さん、自分に残された自慢と言えば財産以外下半身だけだったんです。
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落日の長者~夫婦交換 - 覗き見に喜びを見出してしまった妻~

そのよい例が滝の谷 (たきんたん) の水神で上野 (かみ) の晴世さんが原釜 (はらがま) の寛治さんに襲われた事件でした。 当事者となった晴世さんも彼女のご主人の正治さんもこの件に関し現場で鉢合わせんあっていながら世間に対してはコトを荒立てなかったんです。
実はその時美晴さん、婦人会の副部長である上野 (かみ) の晴世さんと子供会について相談したく晴世さんがよく出かけている上野 (かみ) の田んぼに晴世さんを訪ね、出かけて行ってたんです。
「変ねぇ~・・・あん人、確か今日はここいらで・・・」
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落日の長者~午後の陽だまりの中で~

美晴さんが生きてきた時代、初潮が始まるのを待って男どもがのしかかり仕込むのが普通でした。 むろんそれ以前にお医者さんごっこで間違ってホンモノを挿し込むということもありました。 それゆえ婚姻に際し仲人の紹介話しでは貞操を守っておられると言いながら実のところどこかで使われてしまっていたというのは多かったのです。
英雄さんが夕子さんを許したように寛治さんもまた、美晴さんの過去のことは問わず、あくまでも籍を入れて以降のみ間違いが起こらないよう見張りました。
ですので美晴さん、上薬研 (かんやげん) の田んぼに向かう途中に木立の中で巌さんと契ったことを如何に上薬研 (かんやげん) の餓鬼どもが言いふらそうとも頑なに首を横に振り賢婦であることを示していたんです。

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落日の長者~水呑みに寝取られ~

油断した所を襲われ締め込みに持ち込まれたとはいえ上野 (かみ) の正治さん (分家の内でも上席に当たる) ならいざ知らず、下谷 (しもんたん) の英雄さん (分家ではあるが末席 下働) が相手でしかも美晴さん自身が感じ入ってしまい堕とされたとなると話しは別でした。
寛治さんが仲間内の中で威厳を示すため、例えば下谷 (しもんたん) の夕子さんを濁流が溜まっても吐き出す女が見つからなかった場合相手をさせ (つまり妾奉公をさせ) 、しばしば野で締め込みに持ち込むことはありましたが夕子さん、元々英雄さんに嫁ぐ前、家庭の都合から飯盛り女 (泊り客相手に添い寝 - 淫売を行う) として浜の旅館に奉公に出され幾多の男を味わわされており英雄さんにしてもそんなものだと諦めており、でもしかし逆など入谷村では過去に例が無かったからでした。
各界で番付が一枚違えば家来同然、一段違えば虫けら同然という言葉があります。 上野 (かみ) なら分家の中でもちゃんと農協へ供出義務を背負う石高を有する百姓なんですが下谷 (しもんたん) はその多くが原釜 (はらがま) から借り受けていて、いわば小作人のようなもので供出義務すら持たない水呑みに近い百姓だったんです。
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落日の長者~身勝手な夫~

長たるもの負けを認めた時が滅びる時と心得ていた寛治さん。 閉鎖的な空気を打ち払う為の集落内の楽しみと言えば寛治さんの場合お金と女、それであっても取り立てとはいえ他人様の女房をご主人の目の前で犯すというのはどうかと仲間内もここは頭を下げ許しを請うよう説得に当たりましたがどうあっても負けを認めませんでした。
近隣の住民に負けないほどの財力と男前を目指していた寛治さん。 入谷集落ばかりかその近隣の村にまでわざわざ出かけて行って飢える民に高利貸しを行っていましたので飢えに苦しみその日暮らしをすることが如何に惨めか良く知っていて、どうあっても自ら進んでそこに堕ちてゆくなどということはしたくなかったんです。
寛治さんがここまで病んだのには訳がありました。 飢えに苦しんでいるはずの女どもを質草代わりに抱くと決まって女どもは寛治さんの男に溺れるのです。 終いには質草としてではなく女としての喜びを与えて欲しくすがってくるのです。 寛治さんの男前はこういったことに裏打ちされた、いわば自信の表れだったのです。
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村の淫習に対抗する美晴さん

相手にされなかった女どもから気がふれてると後ろ指をさされても村の男どもは埼松美代子さんを我が物にしようと襲うのを止めませんでした。 自分より先に誰かの男根が彼女のラビアに食い込み、そのことによって彼女が悶え苦しんでると思うだけで股間が熱くなり息苦しくなり眠れなくなるからでした。
仕事が終わればだらしなくそこいらでごろ寝する。 そのただらしない男どもがこの頃挙って化粧するんです。 たとえそれが川の水しかなかったとしても棹とその付近を磨き込み眉に唾をつけてキリリと整え美代子さんの元に今宵こそはと出かけて行ったんです。
不思議なもので美代子さんも男どもに輪姦されると分っていながら男どもと同じように水を見つけるせっせと手入れを怠らなかったんです。 ご主人の昭義さんはすっかり諦めてしまっていて、しかも男どもは礼儀正しく外に飛沫いてくれていて美代子さん、安心しきっているのかそれとも欲情してか何時もと違って腹部にいつ冷めるとも限らない微熱を、これまたいつの頃からか帯びていたんです。
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我を忘れ美代子さんに群がる獣たち

しかも襲った理由たるや里ならともかく農村部で忌み嫌われる飢えに苦しむ人たちに牛馬の餌のようなものを報謝と見せかけ返せないと知って押し付け質草にした高利貸しほんの利息分を頂いただけだというじゃありませんか。
これには流石に温厚な村人たちも黙っちゃいませんでした。 特に中組 (なかぐん) と下組 (しもぐん) の人々は元々上組 (かみぐん) のことを好ましく思っていなかったので、その元凶である原釜 (はらがま) を村八分のように扱い始めたんです。
入谷村で起こるごくごく普通のことなら我関せずを貫き通す上薬研 (かんやげん) の村迫金兵衛さんまでも借金のカタに姦通と聞いて原釜 (はらがま) にはここに越してきたとき自分らも覚えがあったので烈火のごとく怒りだし村迫家の田んぼに隣接する土地がたまたま原釜 (はらがま) 家の所有地、つまり水利権で争っていたと言うこともあり上薬研 (かんやげん) の田んぼに出向く寛治さんの妻 美晴さんに例の鉞 (まさかり) を飛ばすが如くの剣幕で事あるごとに当たり散らすようになったんです。
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三つ巴の争奪戦

一家族が暮らすための米や野菜は田畑さえ持っていればなんとか自給自足で間に合うものの肉・魚、それに着るものや酒などの贅沢品 (そう呼ばれているもの) は炭焼き程度 (現在の付加価値に換算し年に100万未満の稼ぎ) では賄えなかったからです。
原釜 (はらがま) の寛治さんがどうしてあれほど女を転がすことが出来たかと言うと、とりもなおさずそれは賂いのおかげでした。 原釜 (はらがま) は当時の人が忌み嫌う守銭奴、つまり高利貸しを例えば入谷村の人々相手でも行って財を成していたからでした。
夏場はともかく、冬の足音が聞こえてくると入谷村では女どもは気色ばんで寛治さんの後を追うんです。 それはまたこの入谷渓谷の秩序の乱れを産む元となりました。
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美代子さんの口淫

それと言うのもサカリがつくのに合わせ周囲を取り巻く男どもが必ず胤を植え付け、或いは和合があったからで日も落ちると寝るかはたまた和合しかなく仕込み後から子育ての間は一方は家族を養うため、他方は家族を守るための生活に追われ多忙さに汲々としてしまい男も女も締め込む相手を必要としなかったのです。
このサカリ、近年はひと年におおよそ400回程度挨拶代わりに締め込みを行う。 というのと比べると回数から言えばこの時代の締め込みは比較になりませんがそれだけにお世話になれる相手方の数にも制限があり、女性が胤を受け取る準備ができない限り、或いは伝えない限り男性もまた濁流など溜まらず。 従って万が一秘めやかにサカリがついたとしても相手にそうと伝えない限り締め込みを行ってもらえなかったのです。
入谷村の物語を書くにあたり何故にこの地が特殊かと言うと生活に追われ楽しみの無い時代一体何が楽しみか、それは無料で出来る締め込み以外なかった。 気分を高揚させつつ相手の心の内を探る。 そして娶わせる。 それこそが至高だったのです。 入谷村はこの点だけは他と比べ長けていました。
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ご主人への反発

ではそれはいったい誰のことを指すんでしょう。
イの一番に上げられるのが美代子さんを転がすのが上手い寛治さん、テンポ良い会話で相手を安心させ頃合いを見計らって体を触りその流れで開かせてしまう今で言うところのイケメンでナンパ系。 そこが気に入ったようなんです。
更に長嶋定男さん、中組 (なかぐん) の長でありながら入谷村の長老である身分を利用し、また小難しい言葉の羅列を並べ立て平伏させ開かざるを得ない状態に追い込むと言ういわば弱い者をイジメて愉しむタイプ。 好みと言うより騙されてしまってと言ったほうが良いようです。
そして最も美代子さんが苦手としていたのが隠居 (えんきょ) の時雄さん、身の丈六尺は如何に男勝りと呼ばれていても女如きで叶う筈もなく (見た目だけですが) 唯唯諾諾開かされていた・・・ とここまでは平常時の美代子さんの場合。 でもサカリがついてしまうと様相は一変しました。
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