掘割の畔に棲む女 ~売春宿の汚名を着せられ立ち退きを要求される~
確かに千里さんのやり方は別方面から見れば世界的な観光都市の片隅に根付く売春宿、それそっくりだったからでした。 旦那連中も千里さんはあの藤乃湯旅館の離れに司という男と棲み暮らし、しかも夜毎客に向かってまるで他人棒を求めるが如く夜伽に出かけていたことを知っていました。
なので自分たちは千里さんを司と引き剥がすべく寝取るつもりで出かけているのに女房連中ときたら寝取られにわざわざ出かけて行くんだと息巻いての集団結託だったんです。
これに呼応して行政が重い腰を上げ強制撤去に乗り出しました。 千里さんが無断で住んでいた家屋も、あれほど熱心に千里さんの躰目当てに通い詰めてたおじさんたちが一言も反対してくれないものだから千里さんが仕事から帰ってみると既に更地にされていたんです。
第27話“桐箪笥のある風景” Shyrock作

敷居が高く少し気後れしましたが、惠が和服姿の仲居に案内されスタスタと中に入っていったので、仕方なく私も後を着いていきました。
惠と私が履物を脱ぐと下足番が歩み寄り履物はそのままにしておいてくれと言うので、私たちは玄関を上がり廊下を進みました。
館内に足を踏み入れると、よく磨きこまれた天然木の玄関から奥へと廊下が続いていました。
さりげなく飾られた季節の花がふっと気持ちを和ませてくれました。
まもなくふたりが案内されたのは広さが二十帖ほどのゆったりとした座敷でした。
座敷の正面には風格を感じさせる桐箪笥が置かれ、上座には床の間があって立派な掛け軸が飾ってありました。
惠は私に上座に座るようにいいました。
私は遠慮しましたが、惠はそれを許しませんでした。
料理は惠が弁当を2つ注文すると、仲居は丁寧に挨拶をし座敷を出て行きました。
「うふ、また二人っきりになれましたなぁ」
仲居が座敷を出て行くや否や、惠は急にお茶目な表情に変わりました。
「朝食の時は『もうさよならなんだ』って別れを覚悟していたけどね」
「そうどしたん……?」
「うん……」
掘割の畔に棲む女 ~鍛え上げた肉体のみが持つ魔力~
旅館が如何に忙しくても体力的には農婦の方が数倍キツイ肉体労働。 しかも掘割に住むと決めた以上自転車通勤せねばならず更に一層躰は逞しくなっていきました。 太股などなまじっかの競輪選手張りになっていったんです。 男との睦言のために躰を鍛え上げたわけではありませんが鍛えるということは肉体が若返るということらしく一時は潮が引くが如く男日照りになっていった廃屋も、それを知った男どもがぼちぼち帰ってきて以前にやや近い状態になってきたんです。
本当なら仕事で汗をかいた時など、大塚家の浴室に入ってシャワーを浴び着替えてから帰って来ていたものを、そんなことして時間潰したら男どもと繰り返している睦言に間に合わないのでこの頃ではコンロでお湯を沸かし、それを廃屋の浴室に持ち込んで行水するようになったんです。

第26話“京都南インターから” Shyrock作

惠が一人身なら、何のためらいもなく誘っていたでしょう。
しかし、惠は人妻、夫のある身です。
彼女を愛せば、きっと彼女を苦しめることになるでしょう。
私も当時すでに35歳とそれなりの分別を持ち合わせる年齢になっていました。
お互いに恋愛ではなく遊びと割り切って付き合う、それならばできたかも知れません。
でも惠とはそんなことはしたくない、いや、できないと思いました。
その後も、ふたりの会話は弾むことなく途切れたままでした。
惠は時折、私の方へちらちらと視線を送ってきました。
私は何だか息苦しくなって、テーブルの水を飲みました。
今どんな言葉が相応しいのだろうか…私は言葉を探しました。
でも適切な言葉は見つかりませんでした。
沈黙を破ったのは惠の方でした。
「裕太はん、ほな、ぼちぼち京都へ帰りまひょか」
「あ…はい……」
その言葉はごく当たり前の言葉なのですが、どこか寂しい響きのある一言でした。
「ここのお茶ぐらいは僕におごらせて」
「そんな気ぃ遣わんでも、よろしおすぅ」
掘割の畔に棲む女 ~見習い農婦~
人から見ればな~んだという程度の野菜を分けてもらえたことであれほど喜ばれたのは農家にとって至上の喜びだったのでしょう。 その家のおばあさんが千里さんを殊の外気に入り手伝いに来いと言われたんです。
期待してもらっても給金をそれほど出してはあげれないが技術だけは教えてやると言われたんです。 腹が減ったらウチの飯を腹いっぱい食えばいいとまで言われたんです。
翌日から千里さん、片道10キロをゆうに超える距離を自転車に乗ってその農家に通いました。 どんな天候になろうが休みなく通い詰めました。
第25話“名残の宝塚” Shyrock作

尋ねるまでもなく当然ながら京都へ帰宅するものと推測していました。
「そうどすなぁ。やっぱり帰らなあかへんわなぁ……」
バックミラーに写った惠の表情はとても曇っていました。
私はあえて明るく答えました。
「そりゃ、こうして美人を乗せてずっと走っていたいですけどね。ははははは~」
「ほなら、そないしまひょか?」
「じょ、冗談ですよ!そんな訳には行きません。昨夜泊まることも家に連絡してなかったのでしょう?早く家に戻らないと皆さん心配されていますよ」
「裕太はん?」
「はい?」
「タクシーに戻ったからゆうて、急に、一見のお客はんに使うような、よそよそしいしゃべり方、やめてくれはらしまへんか?」
「え?あぁ……確かに。このクルマに乗ると、つい無意識に仕事口調になってしまうもので。ははははは~、ごめん、ごめん」
「別に謝らんでもよろしおすけど。せやけど、急に他人行儀になったらなんや寂しおすがな……」
「……」
「昨夜あんだけお互い燃え上がったのに……」
(キキキキキ~~~~~!!)
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掘割の畔に棲む女 ~心の闇を溶かしてくれた驟雨~
藤乃湯旅館の離れではそれでも司が何かと食べ物にしても千里さんや美月ちゃんの躰を想って工夫を凝らし買い求め目の前に並べてくれてましたので義務と思って食べればよかったんです。 ところが廃屋に来てからというもの賄いは全て千里さんが考えて出さねばなりません。
男たちが適当に持ち寄ったものの中から彼らが飽きないよう出す日にちや工夫を凝らし目の前に並べなければなりません。 期限切れや廃品に近いものを持ち込んでこられても、そううまくお膳立てができるはずもなく、従って少ないお給金の中からなにがしかの買い物をして添えなきゃならないんです。
たとえこのように気を使って添えたとしても出されたものは遠慮なく胃の腑に納めるというのが男の本来の姿ですので肝心の千里さんが体力を保つため食べようとしても何も残っていないんです。
結局彼らの欲望のはけ口として藤乃湯旅館の離れを新たに作らされ雇女のごとくこき使われるため引っ越したようなものだったのです。
第24話“運命のいたずら” Shyrock作

昨夜惠との2回目が終わった頃、正直私は「夜明けは来ないで欲しい」と心から願っていました。
それほどに惠とのひとときが楽しすぎて、離れたくなかったのです。
「この可愛い人とずっといっしょにいたい」と思いました。
でもそんな夢のような願望は当然叶うはずもなく、夜明けは駆け足でやってきました。
残されたわずかな時間を惜しむように、私は惠を愛することに没頭しました。
惠は人妻です。彼女には待つ人がいます。
かりそめにも惠が私のことを愛してくれて、この先ふたりが交際を始めたとしても、結局惠を苦しめることになるだけです。
もしかしたら、ふたりの出会いは神様が仕組んだ運命の悪戯だったのかも知れません。
その日の朝、私は別れの寂しさを胸の奥に隠して惠を愛しました。
「せっかくめぐり合えた素晴らしい人だけど、こうして愛することが出来るのはこれが最初で、そして最後なんだ」と……
わずか一夜共にしただけなのに、これほど深く愛してしまうとは……
私が生きてきた人生の中で、惠は最高の女性だったと思っています。今でも……
掘割の畔に棲む女 ~天空に星が瞬く頃に 廃屋からの出発~
千里さんがこういったところに棲まなきゃならなくなって良かったのは彼女に目星をつけていた男どもが気軽に出入りしやすくなった、自宅から何かを持ち出し貢ぎやすくなった点じゃないでしょうか。 布団から何から一切合切無くなったわけですから、しかも無一文に近いわけですからお恵みが無ければとても生きてはいけません。
その反面都合が悪いのはどうしても躰を求められる点ではなかったでしょうか。 親切心で持ってきてくれたとは言うものの心変わりされたりすれば売買と取られても仕方ありません。
千里さんはだから誰かとふたりっきりになることを極力避けました。 どうしてもというときには昼間に表の戸を開け放した状態で話しをしました。
第23話“再び絶頂へ” Shyrock作

私も限界に近づいていましたが、惠の中での放出はまずいと考え、惠から離れようとしました。
ところが……
「いやや!抜いたらあきまへん!中で!中で…してぇ~……」
「えっ!?いいの?」
さきほど部屋で愛し合った時、私は不覚にも抜かずに彼女の中へ放出してしまいました。
同じ轍は踏んではいけないと思い、今度は直前に抜こうとしましたが、意外なことに惠は膣内射精を求めてきました。
すでに私も放出寸前に差しかかっていて、考える余裕は残っていませんでした。
私は一度は抜きかけた肉棒を再び奥まで押し込み、ゴールに向けて激しく腰を動かしました。
惠は絶頂に到達したとは言っても、男のように急激に下降線をたどるわけではなく、恍惚大河の波間を小舟に揺られるように深い絶頂の余韻に浸っていました。
いつのまにか髪飾りが取れてしまい、アップに結っていた惠の髪は解け乱れてしまっていました。
(ズンズンズンズンズン!ズンズンズンズンズン!)
「あぁぁぁぁ~~~~~!ああっ、ええ、ええわぁ!裕太はんもイッてぇ~イッてぇ~……うちもういっぺんイキそうやわ!いっしょにイッてぇ~、裕太はん、いっしょにイッてぇ~~~!」
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