隣村への蔑視
やっと地元の若い漁師さんを捕まえて場所を訊くことが出来たが、
「うん? どこな? どこへ向かいんしゃる?」
男は魚を扱っていて汚れたであろう手を、腰にぶら下げたタオルで拭きながら加奈子に躰を摺り寄せるようにし尋ねた。 加奈子は観光パンフレットの地図を見せ、予約を入れてある民宿を指し示しこう述べた。
「ここです。 この、大浦さんって方の民宿です。 この道に沿って進んだら辿り着けますか?」
ごく普通にものを訪ねたつもりだった。
ところが男は当初地図を覗き込んでくれてはいたものの、その場所が鰐浦とわかったところで地図から目を離し、ついでに加奈子と距離を置き、大浦という名前を聞いた途端、あっちへ行けという風に手をヒラヒラと横に振ってこう言った。
「知らんとばい、そげん地図持ってとらすけん、そうじゃなかとか?……目と耳があっとじゃけん、自分で探しんしゃい」
長編官能小説 『クロス・ラヴ』 第46話 (最終話) Shyrock作
再びクロスラヴ
だからと言って4人の間に新たな恋が芽生えた訳ではない。
だけど今までの友達感覚とは少し違う気がする。
強いていうならば『友達以上・恋人未満』とでもいうのだろうか。
それでもありさと球にそして俊介と浩一に不安はなかった。
彼らには今まで培って来た厚い信頼感があった。
もちろん将来にわたっても絶対壊れないとは断言できないだろうが、少なくとも現時点でその信頼関係は揺るぎないものであった。
とりわけ今回の小旅行後、ありさと俊介、そして球と浩一それぞれの愛情が一層深まったといってよかった。
昔からぜんざいを煮る時に少々の塩を加えることが美味さの秘訣といわれている。甘いものに塩を入れる。一見無茶なように思われるが決してそうではない。微量の塩を加えることによって、その塩が一種のスパイスのような役目を果たし、一層うまみを引き立てることができるのだ。
つまり今回のクロスラヴは、ありさにとって浩一が、浩一にとってありさが、球にとって俊介が、俊介にとって球が、それぞれが『塩』的役割を果たしたわけである。
もし彼らの行動が世間に知れたら、不道徳な行為だと白い目で見られることもあるだろうが、4人は臆することはなく自分たちを信じていた。
その他連絡事項
- 官能小説『知佳の美貌録「お泊まりデート」 彼のマンションから朝帰りする久美の次女瑠美』
- 小説『残照 序章』
- 小説『残照』
- 官能小説『ひそかに心を寄せる茶店の女店主』
- 官能小説『父親の面影を追い求め』
- 掘割の畔に棲む女

- 残照
- 老いらくの恋
- ヒトツバタゴの咲く島で