知佳の美貌録「祖々母が望んだ領主風な生活」
台所方こそこの家で生き抜くため覚えさせられたから必然 身についた。
高貴な女将(にょしょう)が畳などの座る折の所作立膝も
膳を上げ下げする折に畳だろうが板敷だろうがこの時代、銘家と名乗るからには跪かねばならない、その時の所作を高貴なお育ちのお姫様・ご隠居様が認めてくれなければ膳の用意どころか忽ち追い出される。 だから自然とご隠居様の所作を真似て立膝づきをおぼえたのだろうが、ご隠居様の日々の暮らしの中に茶道があり武家のたしなみとして、また唯一の楽しみとして毎日幾度も茶を点てていた(点茶)。 だが端女ごときにこの時分 高級品に値する茶器・抹茶をご隠居自ら点て、触らせてもらえるはずもなく、それでなくとも己は厄介者あつかいされており、根がその性根を毛嫌いしていたためか点茶の類は一切覚えようとはしなかった。
着るものだってそうだった。
幼少のころは納屋の片隅で、成長し家事一切ができるようになると屋根裏部屋で寝起きさせられたこの子にとって、着替える着物などまともにあろうはずもない。 布団を敷けば、それで部屋は目いっぱいになるほど狭い、だから端女だって身の回りの品と言えば大きな風呂敷に包んだ下着などを隅っこに置いていてガランとしていた。 お姫様はといえば暁闇に起き出し、きれいに化粧し、きちんと毎日違う正絹の和服を着、友禅などの高級帯を締めて朝を迎えるというのに、この子は風呂もろくろく使わせてもらえなかったことから躰は垢じみ、薄汚れ、ところどころ小さな穴が空いた絣のモンペという名でお分かりの裁着(たっつけ )上下一揃いのみ与えられており、泥や埃にまみれ汗じんだ衣服からは、だから臭気が漂った。 一家の洗濯だけは晴れれば毎日のように洗わされたが、着替える服とてないこの子は着た切り雀で通さなければならなかった。 栄養不足から鼻水を始終垂らす。 それを拭くのも絣の袖、だからというわけではないが心は荒れた。 置き屋や旦那のもとに使いにやらされた時など、解放された気分になれてか思う存分花街の空気を吸い楽しんで帰った。 周囲の男たちも、使いの時間が過ぎても帰ろうとしないこの子が遊び女風に見えたのだろう余計からかい半分声をかけてきてくれた。 男衆の中にいる時だけ女の子は薄汚い服を着ているにもかかわらずお姫様になれたのである。
この地で右に出るものなどいない任侠の世界の覇者女衒、方や然る地方の有力な武家出の見目麗しきお姫様の孫・・・勿体ない話だが、彼女は終生女衒の孫は所詮女衒、淫売女で終わることになる。
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