知佳の美貌録「電柱を伝い外に 戻れない橋」
災難に次ぐ災難 時代を先読みできなかった女衒
髪結いにしても終戦と同時に日本髪を結う人が徐々に減り、変わってパーマなどが流行り出したことから家業を嫌々跡取り息子の意見に従い理髪店(今でいうところの理容院ではなく美容院)に変えている。 そうなると髪結いの技術はもはや使えない。 流行り廃りに追いつけない古い考えのものは置いて行かれる。 それに加えい先に商売を始めていた方が利権をチラつかせ客を横取りする。 兵隊に男どもを取られ遠回しに淫売を斡旋してもらわなくとも必要とあらば自分から進んで身を投げだす女が増えてくる。 最初に住み暮らした大きな屋敷を生活費捻出のため売りに出し、立ち行かなくなった理髪店のテコ入れのため2軒目も売っぱらい、いよいよ隅に追いやられ女衒の発言力も昔ほどではなくなっていった。 そんなご時世を反映してか手駒の孫娘が時代にニーズに合わせるべく反抗期に入った。
芽生えのころ
戦中から戦後にかけ、昭和4年生まれの少女も昔でいうところの年頃となり、誘いかける男も増えた。 それでも昼日中(ひるひなか)町中で男と出会って話したりすれば噂は直ぐに立ち、女衒の逆鱗に触れる。 だが、育った環境が環境だけに男への興味は尽きなく、夕やみ迫るころになると己を抑えることが出来ず夜な夜な 家人には密かに、衆目には大っぴらに 男と遊び歩いた。 日が暮れるころになると、二階の小窓に向かって誘いの小石を男が投げる。 階下では少女が出かけはしないかと女衒が家人が見張っている。 そこで少女は毎回小窓をすり抜け電柱を伝って(木製電柱は上り下りするための足場として足場ボルトが打ち込んであった)外に出た。 こうして誰に知られることなく男と連れ立って出かけ夜明けまでダンスホールで踊ったりし、お互い躰が治まらなくなると、相手が妻子持ちだろうが一向に頓着することなく場末の旅館で逢引したりして過ごし、明け方のまだ暗いうちに電柱をよじ登り部屋に帰る日々を送った。 そのような破廉恥なことを女衒の娘が堂々と昼間行えばご注進も有り得るかもしれないが、一旦権力の座から転落した女衒になど、誰も案じ従うものなどなく、逆に身内から崩れるものが現れたことを後ろ指さし嘲笑っていたのであろう。
自暴自棄になって
幼いころからこの子をよく知り、好意を抱いてくれた男(大学を出て父親と同じ国鉄に勤めていた秀才)もいて告白もされたが、何も好んで穢多の娘をと家族に猛反対され とうとう最後まで結婚を申し込んではくれず、挙句の果て男は親戚に進められて然る高貴な家柄の娘と見合いをし さっさと所帯を持ってしまった。 どうせ自分なんか。 女は荒れ、手当たり次第に言い寄る男と関係を持ち遊興にふけるようになっていった。 ひとりの男を巡り女同士取っ組み合いの喧嘩までやらかした。 女衒の家に生まれた。 たったこのことだけでこの女性は --以降書き進める主人公の母であるが-- 戻れない橋を自ら好んで渡ってしまったのである。
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