知佳の美貌録「働かない亭主を支え」
資産より身分がモノ言う時代
好子が見つけた亭主(仮に幸吉としよう)は現役の高等科の学生。 それも地区では神童と呼ばれるほどの秀才、しかも隣の、郡部とはいえ代々議員の息子である。 親としてみれば末は跡目として議員を、地盤を引き継がせ一家を反映へと誘ってくれるものと信じてやまなかった。 だから自慢タラタラだった。 それが世間の厄介者、鼻つまみ者の穢多(部落出)の孫娘と行きがかりとはいえ身体の関係を持つに至り、引くに引けなくなり結婚をと、仮にも名門の家に親に断りもなく連れきて言い張る。
花街でシマを張る組の若頭の娘とデキて実家に連れてきてしまった市議会議員の息子。 と、こんな感じになる。
なにはさておき、これが一番厄介だった。 今日でもたまたま同じ店で顔を合わせ、酔った勢いで組の幹部に酒を注いで回ったと同じように、それが公になれば議員である己の地位も危うくなる。 議員の親として、神童ならば学位を取らせ末は博士か大臣か その期待を込めて八方手を尽くしやっと送り込んだ名門の進学校。 その自慢の息子が遊びほうけて女を作ってしまい勉学を放り出して結婚をとぬけぬけという。 好子と結婚したいと言い出した幸吉に親は「勘当だぁ~!出ていけ~!」の一点張りで追い出してしまったた。
家無し子
それもそうだ、将棋の腕なら誰にも負けない神童と言われた息子をたぶらかしたのが隣町の女衒の孫娘となれば女郎遊びなら自身、いや田舎の大の男衆であっても多少覚えがあり、許せないでもないが結婚となると話しは別だ。 第一せっかく築き上げた名門の家に娼婦をあげたとあっては世間体が悪いし、ご先祖様に申し訳が立たない。 それに加え、どうやって調べたか知らないが好子の生活の乱れが一層議員の癇に障った。 けんもほろろに追い出され、ついでに新婚生活のための多少の借金でもとのもくろみも、まるで見当違いになってしまった。
いけ好かないご隠居様のもとでの間借り生活
明日食べる米や味噌どころか、雨露凌ぐ家もない有様に、仕方なく女衒に頼み込んで間借りさせてもらうことにした。 孫娘の好子はそれでも住み慣れた家だからよかったものの、日長一日何もせず寝て暮らすには男にとって気持ちの良いものではなかったのだろう。 根が将棋の腕では右に出るものなどいないと謳われた苦労知らずの神童。 今に見ろ、世間をあっと言わせてやるという野心を、慢心を失っていなかったから厄介。 これは後に書くが、当時名人と謳われた人にスカウトされ弟子入りしたにもかかわらず、才能が開花せず、いや、怠けてばかりいて破門よろしく逃げ帰っているのにである。
最初の夜逃げ いや足ヌケ
厳密にいえば何が気に食わなかったかは未だもって定かではないと好子は告る。 が、幸吉に言われ好子はある日の夜、手に手を取って夜逃げ?逢引き?してみせた。
してみせたというのは議員の親に向かっても、お姫様に向かっても当てつけ。 心配させてみたのである。
夜汽車に乗って逃げおおせた場所も、今もって定かではないというが、当初は好子のたくわえや何やかやで小さな部屋を借りて、幼いころに祖母から教えられた繕い物の内職などをして糊口をしのいだ。 やがて子供が出来、好子が働けなくなると その部屋も家賃を滞納しがちになり、食べ物も底を尽き、借金の当てもなく 家財道具やなんやかやを次々高利貸しに持っていかれ、終いには寝ていた布団まで剥ぎ取られ ついに追い出された。
こうなっても幸吉は一向に働こうとはしなかったのである。
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