知佳の美貌録「逃避行再び 収監された母」

有無を言わさず身ぐるみ剥ぎ取り、体内に何か隠し持っていないかまでも数人の取調官を前にし徹底的に調べ上げられる。 心身ともに外の世界と縁切らせるためだがその後諦め素直になった捕縛犯の合意を得て指紋を採取されモンタージュ写真が撮影されるなどし犯罪人登録書類が作られる。
本当の理由はいまだにわからないがある日の深夜 あれほど平穏に過ごせると思えた淡路を再び抜け、今度こそ大阪の八尾よりもっと粗悪な場所に一家は逃夜行した。
それから数日、外出を避けることはあっても親が気づかぬ間に姿を消すなどということはなく、久美にとって何事もないある種平穏な日々が過ぎていった。
何故か表に出たがらない母に言い出しにくく、淡路に移り住んだ時のように新しい学校への転入手続きを久美は今度も自分で行った。
相変わらず他校の制服らしきチグハグな服を身に着けて登校し、目の前に現れた学校の職員らしき男性に声をかけ職員室の場所を聞きだし、勝手に職員室に乗り込んで手続きを済ませた。
だが、数日後 父が留守した間にこっそり出かけていった母はどんなに待っても帰ってこなかった。
後で知ったことだが実は淡路に潜んでいる間に官憲に嗅ぎつけられ証拠を握られたと知り、慌てて夜逃げしたという。
官憲の裏をかき大阪に逃げ延びた。
この時代をシノグにはそこしか残されていなかったからであったが、それと分かって追手が… が、好子は、閉じこもることが我慢できなくなりつい、ひとりで外出したことろを捕り押えられ収監されてしまっていた。
夫ちゃんのためならエーンヤコーラをやってくれる、たとえお妾さんになってでもお金を持って帰ってくれる好子という存在がいなくなると一家はたちまち困窮した。
アルコール依存症で酒が手放せない、働かない父の分まで久美がどうにかして食用を確保しなければならない。
台所方の久美は父に差し出す肴と酒に、まずもって困ることになる。
ただでさえ弟に食わせるものがなくて学校で出た給食の余り物を持ち帰ってたというのに、今度は父の酒の肴のために給食を持ち帰らなければならなくなったのだ。
殴られることを覚悟で酒屋に酒をツケで出してくれるよう頼むため街角に立ったときもあるという。
そんなある日のこと、父に連れられ久美たち姉弟は女衒宅に里帰りした。
食うものに窮した幸吉が恥を忍んで女衒に便りを書いたかというと、そうではなかった。
旅費・その他一切を女衒が手配し帰してくれていた。
女衒宅に帰り着いて幾日か経過した夜のことである。 深夜大人たちが一室にこもってひそひそ話していたのを久美はトイレに立って、話しの内容を何気なく立ち聴きしてしまった。
話しの中で出てきた母は何らかの容疑を駆けられ官憲に捕り押さえられているという。
保釈金云々の知らせが真っ先に届いたのが女衒の元で、慌てて手配を済ませ取り敢えず執行猶予付きの仮保釈が決定されるまでの間久美たちを呼び戻したことが分かった。
妻が捕まったとうすうす感じていたにもかかわらず、己可愛さに知らん顔して幸吉は日々酒を食らって寝て暮らしていたのである。
生活費に事欠くと好子は度々そっと女衒に文を寄こしており、女衒も事情はよく知っていた。
鳴り物入りで大阪入りしたにもかかわらず役立たず、酒浸りで怠けものの幸吉になど可愛い子供たちを任せておれなかったからである。
捕縛の理由は恐らく業界と組んで売春防止法に抵触した、しかも先方を業界の若い者を使って強請ったことによるものと思われる。
初犯であったにもかかわらず好子はおよそ2年間収監されていることからも、祖父が悪名高き女衒であったことからも、恐らく業界関係者と勘違いされその方向で調書がとられ情状酌量がなされにくかったようなので検察の起訴状は売春が主で詐欺罪を付け足し裁判官の心情を悪くしたものと思われる。
警察に捕まって最初におこなわれることが写真の衣服の剥ぎ取り。 体内に隠し持っていると思われる異物の捜査で、衣服を全て剥ぎ取った後、口や耳、或いは下の双方の口もこじ開けられ指を突っ込んで異物の捜査をされる。
現代は人権の尊重で写真のようなこと (女囚に男性がという意味も含め) はなされませんが当時はこれが普通で、これをやりたくて房の管理に就く輩も多かったと聞き及びます。
この後簡単な健康診断 (医師による簡易な診察が脱がされた状態のまま複数の刑務官が取り囲む中で) が行われ終わると、下着を含め一切を一時没収され (出所まで預かる) 全て囚人用のものを身に着けるよう指示され房に移送されます。
近隣の房には決して同一犯行と思われる囚人は収監されないし、食べ物は毎日毎回365日同じメニューで生きるための水分だけは要求すれば何度でも出してくれるなど人間の最低限の部分だけが尊重され世間とは半ば隔絶 (面会が許され差し入れも受け取れる) されます。
そして、どんな時でも番号で呼ばれ、通常房内から世間は一切見えないよう壁で囲まれた2重檻に入ることになります。
新聞や単行本など読めはしますが、重要な部分はすべて切り抜かれていてそれらから世間の動きをうかがい知ることはできない隔絶された世界に起居させられます。
唯一の希望は弁護士や知り合いが面会に来てくれることのみ。
この時ばかり (面会人と会える時) は生きている心地がしますが、この時代獄中はまさに網走番外地を地で行くような状態で修羅場だったと好子は後にぽつりと漏らした。 が、その時でさえ実際何をやらかしたかは頑として口にしなかったというから気の強さもひとしおだったようです。
夫の思いもよらぬ裏切りにあい、このような獄中生活をしいられたことから性格が卑屈になり夫や子供のことを益々気に掛けなくなっていったと言います。
好子が捕まった時、真っ先に保釈金を積んで好子を牢から出してくれと女衒に懇願したのは好子の祖母 (ご隠居さん) だった。
「母を取り上げられ家計を背負わされた久美が可愛そうで…」
女衒の権威は地に落ちており、明日暮らす金にも事欠いており住まいも売りに出していたがその全財産を投げ打ってでも好子を釈放してやってくれと泣きついたのだ誰であろう、あの好子が恨んで止まなかった祖母であった。
保釈金は法外だった。
それもそのはずで、先に書いたように女衒とは業界関係者とみられていてそれに対し情状酌量、ましてや仮釈放はまかりならなかったからである。
しかし女衒は方々に手をまわし言われる通りの保釈金を払い丸2年で好子を出所させている。
口をきいてくれたものへの謝礼を含め、カタギの弁護士を雇う費用のどれほど高かったことか。
これにより女衒の終の棲家はいかにもみすぼらしく小さな間借り部屋となってしまう。
母の収監はつまることろ残されたのは酒浸りの父と姉弟で、お金を稼ぐ手段は完全に閉ざされたとみていい。
八尾時代の苦悩に暴力を付け足し、更にお金がないにもかかわらず食べ物は3人で分け合う。
台所方は久美のみという過酷な生活を2年間も送ることになってしまう。
女衒の家に、久美たち姉弟をいつまでも置いておきたかっただろうが女衒こそ借金に追われ食うや食わずの日が続いていたのである。
悲しいことにこのいざこざの間に棲み家を追われたご隠居は小さな仮住まいの部屋で寂しくこの世とお別れしている。
久美が父幸吉に連れられ女衒邸を出てからというもの世話になっておきながら幸吉は一切連絡を取っておらずご隠居の死を知ったのはずっと後になってからであった。
- 関連記事
-
-
知佳の美貌録「死にゆくものに鞭打つ父」 2021/10/03
-
知佳の美貌録「逃避行再び 収監された母」 2021/10/02
-
知佳の美貌録「わたしは泣かない」 2021/10/01
-
テーマ : 女衒の家に生まれ・・・ 高原ホテル
ジャンル : アダルト
その他連絡事項
- 官能小説『知佳の美貌録「お泊まりデート」 彼のマンションから朝帰りする久美の次女瑠美』
- 小説『残照 序章』
- 小説『残照』
- 官能小説『ひそかに心を寄せる茶店の女店主』
- 官能小説『父親の面影を追い求め』
- 掘割の畔に棲む女

- 残照
- 老いらくの恋
- ヒトツバタゴの咲く島で