知佳の美貌録「囚われの身」
女衒夫婦に養われている(女衒曰く、幼いゆえオンナになるまで・・・つまり売るため囚われていた)間、好子は家計の心配などしなくてよかった。 女衒に気に入られるため、客の気を惹くことだけ缶敢えて生きてきた。 だから二十歳過ぎまでこの家から出ることは叶わなく、まるで使用人のごとく実の祖父にこき使われたが、買い物のお金が足りないとか、遊ぶお金に不自由するなどということはなかった。 女衒にしてみれば見世に出せばたんとお金になるからであったろう。 それだけ遊女として、末は花魁になるべく磨かれてきたと、好子の生きざまを見るとそう思われる。 「あなたが手を握らなかったら・・・」女衒に向かい二言目にはこの恨みつらみの言葉が出てくる元お姫様。 ご隠居も女衒に春を鬻ぐため金で買われ囲われる身分だったのだ。 合意の上子を生したが・・・世の中どこでもこんなものだと、ご隠居様と呼ばれる祖母を見るにつけ思ったものだ。 だが、ひとめぼれした幸吉と結ばれ初めて、このようなウラナリを選ぶと己の身を使って稼がなければならないことを思い知らされる。 幸吉は家を顧みるより、好子という稀にみる美女を抱くより、将棋に勝つことだけ考えるような夫だったからだ。
内風呂を持たない従兄
結婚し、京阪神で半ば夫に焚き付けられ、半ば女衒に教え込まれたオンナという身のいかなるものかを知りたく、春を鬻ぎつつ住み暮らしていたが捕縛され破綻し、生まれ故郷に向け2度目の逃避行をやったころからお金を出してくれていた女衒に勢いがなくなった。 目に見えて没落してゆく女衒の残り少ない財産を親戚演者が挙って奪いに行った。 稼ぐということの大変さを教えてもらっていないものにとって女衒の持つ金は生きるために必要だったからだ。 その奪い合いを演じた従兄が好子の住む長屋の隣を借りて入ってきた。 女衒に仕込まれ春を鬻ぐことができた好子は、さぞかし稼ぐように思われたからであろう。 足りないものがあると、内情をわきまえもせずなんでも頼ってくる。 風呂を借りに来るのもそのひとつだった。
終い風呂
薄暗く月の明かりが浴室を照らしていた。 好子が風呂に入れるのは学生たちを先に入らせ次が夫、そして従兄一家に子供たち、それらが済ませてくれた後が妻と、どこの家庭でもほぼ決まり切っていた。 妻の好子が終い風呂になってしまうのは掃除が待っているからだ。 家族が夕食を終え、幸吉が呑み終え、食後の後片付けを終えた後、朝餉や弁当の用意をし、終い風呂を終えると風呂の掃除をせねばならないからだ。 久美に任せようとした。 だが後述したように久美では支障をきたしかねない。 おまけに父親が焼酎を飲み始めると、これを嫌い部屋に逃げ込み出てこようとしなかった。 幸吉がしたたか呑んで寝てしまうのを待って後片付けを始め、それが終わると朝餉の支度にかかるのが好子のやり方だった。 泥のように疲れた躰を湯で温めようと風呂に向かうと冬場など、誰も追い炊きなどしてくれてなく、すでに冷め切っていて勇気を奮い起さねば入るには入れない。 僧侶が滝に打たれ修練する真似など真っ平御免だ。 しぶしぶ薪を足し燃え盛る火を見ながら怒りたくなる心を落ち着かせ沸くのを待って入る。 便利なのはこの湯が翌日洗濯に使えることぐらい。 好子は毎度、逆転の発想をすることで、ともすれば暗い気持ちになるのを抑えた。 この深夜の入浴は面倒な問題を引き起こすこともある。 ひとつには幸吉の酔いが醒め始め、風呂を終え床につこうとすると手を伸ばしてくること。 疲れてそんな気持ちになれないのに、オトコとは身勝手なもので妻のことなど考えもせず溜まったモノを妻を使って出そうとする。 拒めば怒るだけ、躰を投げ出し好きにさせたが、ただでさえ酒で立たなくなっているのに幸吉は変な本に書かれていることを鵜吞みにし、下半身ばかり執拗に触ってくる。 終いには痛くて目が冴え、怒りが増して眠れなくなる。 だが当人は思うように射出できなかったことが不満らしく、やんわりと外で出逢う男どものことを口にする。 着物の仕立てなどという、半端仕事で稼げるわけもないことを知っていて、それでも家計がうまくいっている理由をコトを終えたばかりの妻に聞きたがる。 女衒が残してくれた財産を親戚縁者で奪い合って作ったなどと口走れば血気盛んな幸吉のこと、翌日には隣に縁者に怒鳴り込むかもしれない。 それとなく妄想の世界に相槌うつふりしてその場をやり過ごすしかなかった。 横恋慕故燃えた鳶との情交に比べれば夫幸吉のソレは妄想による自慰行為のようなもの。 自分の責任で家庭を持ち子を生したからこそ今は耐えているが、潮が満ちたら夫の元から逃げ出してやると心に決めていた。
暗闇に潜み覗き見しながら自慰に耽る学生
ふたつめは若い学生によくある問題で、優秀な成績で合格しているにもかかわらず、好子の容姿が悪いのか勉強そっちのけでエロ本などを見てコスり成績が急降下していた。 襖の間から覗き見ると、ちゃんと本を開き視線を宙に彷徨わせコスッているのに、いざ掃除しに入ってみると本などどこにも見当たらない。 学生は好子の、好子は学生のそのことが気になって仕方がなかった。 深く考えず部屋を貸したが、特に気にかけている学生の部屋は夫婦の閨が真下にあることから聞き耳を立て、たまらなくなりはじめると酒飲みの旦那は怖いから避け、つまり寝たのを確認し、こっそり情交好きな人妻の入浴姿を覗きに来る。 幸吉と連れ添い、ふたりの子供まで生した躰ゆえ、何度も例えば産婦人科の医者の前で開いて、或いは飯場(はんば)でも誘うとき奥の奥まで診せている。 化粧を忘れた顔(スッピン)を見られるのは嫌だが、ワレメや陰毛など、誰にでもついているもので見られたからといって恥ずかしいなどと思わなくなっていた。 今更見られたぐらいで、多少使われたからといって減るもんじゃなしと思っていた。 むしろ自分こそ皮かむりの性が使い込まれ疲れ切った人妻の下半身を見てがっかりしないか気になって仕方なかった。 が、気持ちの高揚をあなた任せにすると久美が入浴しているところまでも気が付かなかったフリをして覗き見ようとする。 好子自身イラつくとそこらじゅう徘徊する癖があり、しょっちゅう家を留守にしていた。 学生の方もこのことに気付き始めたように思えた。 もし留守中に間違いが起こるとえらいことになると、それが気がかりでならなかった。 だから覗き見されながらの入浴も、夫相手の閨の時と同じように物足りなくてどうしてよいやらわからない人妻風を装ってやった。 学生が好んで読みふけるエロ本と同じような熟し切った肢体を薄暗い中でさらけ出してやった。 面倒で仕方なかったが、躰の隅々まで丁寧に洗うフリし時に泡だらけになったアソコを湯で洗い流し、シズクが滴る様子を魅せてやった。 普段なら風呂が終わったら掃除は翌日に回し、さっさと床にはいる好子だったが、覗かれていると分った時には裸のまま風呂の掃除を、これまた学童が残らず射出してくれるまで至る所を磨くフリして魅せ付け済ませた。 ただでさえぬるま湯で冷え切ってるのに五右衛門風呂から湯を抜いて掃除にかかろうとすると湯が抜けにくいものだから、風呂に入らないほうがよいほど躰は芯から冷える。 そのような嫌でたまらない心境を悟られまいと浴槽内は後にし、床などを先に磨くフリをして尻を高く掲げ、或いは壁近くによって胸を突き出してあげ、薄暗い中で懸命に頑張る学生に魅せてやった。 成績を上げてやらないことには契約を打ち切られるやもしれないからだ。
籠の鶏
好子がオンナを売るなどし、犠牲にならなければ生計が成り立たない幸吉家。 好子が庇護しなければ元女衒一派や夫の幸吉に叩き出されるかもしれない従兄一家。 そして、好子が世話してあげなければ挫折するかもしれない学生たち。 鳶に仕込まれ、ヒトトキの幸福を味わせてもらえた時など、このままどこかに逃げ延びることができたならと何度考えたことか。 ひとりのオンナとして性春を謳歌したかった。 夫がしつこくてなどと聞かされるとオンナとしての競争に負け、歳ばかり重ねるようで焦ってしまい妙に躰が騒ぐ。 ず~っと後になって男と手に手をとってこの街から姿を消すことになる。 だがこのときはまだ、一緒に夜逃げしてくれるものなどいなかったのである。
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