知佳の美貌録「親の見栄」
久美の弟はガリ勉タイプでした。 父親が呑んだ勢いでちゃぶ台返しを行うと、我れ関せずと二階に逃げ延び、知らん顔して勉学に励んだのです。 もちろん超有名大学に進学し、家出るという目的のためにです。 しかもこの弟と母親はその資金を久美に働かせ得ようと計画していたようなのです。 労せずして見事進学校の特進コースに身を置くことになります。 母の好子は生徒と肉欲にふけったあの学校に弟が合格し入学すると恥も外聞もどこ吹く風、まず中学の担任に あれほど久美の時は見て見ぬフリし迷惑かけたものを、わざわざ出かけていき合格を自慢し特進コースに入れたことを更に自慢して帰り、合格発表や授業参観には着飾り欠かさず出かけているんです。 学校とは目と鼻の先にある 学校が推薦し借り受けた己が面倒をみなければならない下宿その下宿先の自宅で、人妻の身でありながら学生を誘惑しての情交。 それが原因で世間に恥をさらしたと連日高校のOBを巻き込む大騒ぎ発展しているにもかかわらず、それなら情交してた巍然たる証拠があるんですかと言い直ったばかりか合格した息子のこととなると、さも自慢げに世間に吹聴して回ったのですから呆れたものです。 一方の久美は、相変わらず成績優秀にもかかわらずたかだか商業科とばかりにこの母は一顧だにせず、卒業と同時に就職し 稼いだ金はすべて親につぎ込むものとはなっから決めつけ、ぐうたら亭主に 「卒業したら稼いでくれるんですって!」 と、さもお金が欲しけりゃ久美に言ってくださいとばかりに逃げ口上を口走ったのです。 未だ学生なのに母親代わりでもある久美は、生活物品購入は助成金を久美だけ受け取ってるにもかかわらず、まず弟に、次が酒代にと一番後回しにされた。 女の子なのに服は見も知らぬ先輩から頂いてきたという着古しで通すことを母から強要され、全て弟中心の生活が高校の最後の瞬間まで続いたのです。 この一年の間に弟は、学校でもファンクラブができるほど女の子にモテ 親にも優遇されていて、そのいでたちを顧みた周囲が、これがあの秀才の姉だと知ると、中身はともかくあまりに雰囲気が違うため姉弟だと思えず驚愕したという。 みじめと質素、ファンクラブがあって明るく華やかにふるまう弟に比べいかにも寡黙を絵に描いたような久美。 口が重く陰湿な娘は育ての悪さ、置かれた立場の弱さからか母と同じ運命をたどる年齢になるまでこんな状態が続いたのでした。
社長を罵倒
家庭がそんなだから卒業が近づき、担任の進学か就職かの問いに、迷うことなく「就職」と久美は応えている。 中学のときと同じく担任は進学を勧めたが久美は一顧だにしなかった。 母が稼いでくれない以上、たとえ奨学金が下りたにしても今度ばかりは生活費はおりないから、もしそうなったら弟が立ち行かなくなる。 姉として弟にだけは大学に進み、家を出て行ってほしかったのだ。 だからその就職にあたって せめても県外に出れば条件は変わってくると担任は諭すが貧乏だから県外に出る余裕すらないと、にべもなく拒否している。 弟は大事な時期に入る。 あの枕芸者をほうふつとさせる母親に任せておけなかったのである。 学校が春休みに入ったというのに、帯に短したすきに長しで久美の就職は決まらなかった。 決まらなかったというより、肝心の就職試験を受けていなかった。 当時は勤めようと思えばどこでも募集をかけていた。 結婚し、生活苦に陥ると掛け持ちで数社仕事を受けていたほど働き手の天下だった。 だが、嫁入りまでの腰掛けとしての働き口と雇い入れる方も雇われる方も考えていた。 プライドだけは捨てなかった久美にとって女は腰掛けという考え方は屈辱されているようで嫌でたまらなかった。 口では進学を拒み、かと言って県外に出るのも拒んでおきながら、土壇場になって躊躇った。 商店街の店員の募集などいくらでもあったが、小遣い程度の給金で、しかも臨時雇い。 どう考えても理不尽だと 内心思った。 だから、最後の瞬間まで就職試験は受けなかった。 が、 もう数日で卒業という日最後に残った数社のうちの一社の試験を、しぶしぶ久美は受けた。 もっと良い会社が・・とそう思っている間に就職活動の期間は過ぎていたからだ。 それほどに商業科とは社会的に本業で働こうとして入学しているのではないとみなされてか中学の担任や高校の担任が言うほど募集が持ち込まれなかったのだ。 しぶしぶ受けた会社で出された学科試験の問題は、人を馬鹿にしてるのかというほど簡単だった。 それは算数の一桁と二桁の足し算などという、まるで中学入学試験にも満たない稚拙な問題だったからだ。 この会社は一次試験の結果を見ることなく、続いて面接試験に移った。 こともあろうに二次面接に臨んだ折、ある面接官と思える人に向かって久美は 「高卒をバカにしてる。 あの程度の問題、それも長時間かけて。 小学じゃあるまいし!」 と言ってのけたものだ。 事実久美は高校の試験では一番最後まで問題用紙を提出しなかったものを、この日は真っ先に提出しているからだが・・・何ゆえかというと、その面接官の中に 態度で言えば机に脚を投げ出して人の話を聞くような、そんな見下げ果てた男がいたからで、その男は久美に対し 「どうですか? 試験は難しかったでしょう」 と誰より先に質問してきた。 久美は面と向かって 「この程度の問題を難しいなどという会社の、社長の程度が知れる!」 と面罵したという。 「お前のような奴が社長なら会社は間違いなく潰れる」 と。 残りの面接官はおどおどしながら適当な質問を浴びせ面接が終わった。 面接が終わって、集まった受験生一同が各々試験の合否を含めた感想を言い合った場で、その、久美が面罵した、殊に態度が悪かった男が社長だと聞かされるに及び学校に取って返した久美は、担任に向かって開口一番社長を面罵したことを告げた。 「あの試験落ちたわ、先生次無い?」 あっけらかんと言ってのける久美に 「えっ、お前でもあの会社落ちたんか?」 実のところ、先に帰ってきたほかの生徒からは 「絶対合格だった」 と嬉々として報告を受けていて、まさかの大本命が落ちるなどとは担任も思っていなかったからだ。 苦し紛れに社長を面罵する、それほど難しかったのかと思ったからである。 かといって、もう受ける会社は他に残っていなかった。 しかも教師にとって、あの会社の社長を面罵したとなると由々しき事。 早速詫びを入れている。 久美はしぶしぶ自宅に近かった、小さな呉服店の店番が空いていたので そこに仮決めして生まれて初めての就職試験は終わった。
自動車会社に鳴り物入りで入社
卒業式を終えた数日後、学校宛に社長を面罵した、あの会社から久美の合格通知が届いていた。 「合格した!」 と喜んでいた連中は何故だか全員落ちていた。 面接で一癖も二癖もあった者だけ合格していた。 試験結果について 「あれだけの根性がないような人間は雇っても所詮腰掛けぐらいにしか考えておらんから役に立たん」 の社長の一声で就職が決まったと言われた。 そして、次年度からの試験問題もガラリと極めて難しいほうに変わったという。 そうはいっても日本の社会が女性を受け入れていない時代、久美は予想していた通りお茶汲みをやらされることになる。 しかも薄給でである。 その少ない給料のほとんどを家に入れながらお小遣いを使わないよう貯金し、連日まじめに会社に通った。 一方の好子は相変わらずの生活ぶりで、誰にも知られることなく家を空けるのが普通になった。 トンビが鷹をなんとやらですっかり天狗になり、着飾っての街歩きが頻繁になった。 男が女に声をかけようとするとき、いつもフラフラしてくれているオンナこそ狙いを定める。 好子という人妻は、そのような男のよいターゲットになった。 好子は好子で声をかけまくられるものだから有頂天になった。 その日も家を抜け出す好子、しかも、その後ろ姿を追って父までこっそり家を抜け出すという 破局の家から久美は会社に通い続けた。 この時まだ久美は、大阪で庇ってやった弟に幸せになってほしいと願っていた。 なんとしても弟を目指す有名大学にストレートで出してやりたかった。 口では自分だけ冷や飯食ってといいながら、弟のために給料のほとんどを家に入れ貯蓄していた。 母はと言えば気楽なものだった。 なにせ生活保護費が2ヶ月に一度決まって振り込まれてくる。 遊んで暮らす分には不自由しなかった。 問題があるとすれば夫の酒代だった。 それを久美の稼ぎで穴埋めした。 理由がなんであれ舞い上がったオンナを手玉に取ることほど簡単で面白いものはない。 オンナが遊ぼうとすると遊び代はオトコが持つのが決まりだが、この人妻、レス故か半分は持とうとしてくれていた。 着飾るものの半分程度自分で買うだけでよかったからだ。 その余ったぶん、欲情も抑えきれなくなっていたからだろう以前にもまして男と遊んで暮らした。 旅館の女将や校長との仲は、噂が立ち保護費で安定してくると勝手にやめていた。 やめておいて、その頃閨上手、面白いオンナなどと色目で見てくれる男たちとオンナの盛り(サカリ)が始まり、お酒を覚えたこともあり次々にねんごろになった。 酒の席を終えた後、気が大きくなるのか必ず閨を人妻の方からねだったからだ。 ロハでである。 夫 幸吉の目を盗んで出かける先も この男たちの元だった。 それを、どこで見ていたのか幸吉が後をつけ男との言い逃れできない証拠を見つけ、因縁をつけた挙句、強請り始めたのである。
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