知佳の美貌録「駐車場の雪かき」
泊り客との情事にうつつを抜かし、亭主の盗み癖さえ差配できないでいる女将に、実の母である置き屋の大女将が苦言を呈した。 それを恨んでか、悉く女将は久美に辛く当たった。 大女将から「簡便しとくれね。 私の育て方が間違ってたから。 でもね、久美ちゃんがいてくれなきゃこの旅館は持たないんだよ」とまで言われ我慢してきた。
その冬一番の寒波に見舞われた翌朝、女将は早めに出勤してきた事務員である久美に駐車場の雪かきを命じた。
雪かきができる余剰人員は久美以外誰もいないから、とにかくチェックアウト前に車が駐車場から出せるように雪をかけという。
個人の家の庭程度ならいざ知らず、旅館のだだっ広い駐車場をひとりでである。
無理難題だった。
それでなくても、自宅の駐車場から夫の車を出すために久美は、夜も明けぬうちから雪かきに追われくたくたになっていた。
この頃になると夫はもう拗ねることが当たり前になり、酒を呑みつつタバコをふかし、明け方までテレビを点けっぱなしでボーッと見続け、3~4時近くなって炬燵で寝入る。 生活の心配せずとも久美が何とかしてくれるからだ。
そのおかげで夫は普段通りに起きてきて、いつもの通り食事を終えると何事もなかったかのように出かけたのだが・・・。
これを予測していたから子供は早くに起こし朝食だけは済まさせた。 幼稚園に向け、早めに出かける用意だけは明けぬ前にしておいた。
夫の、こんな日でも無理やり仕事に行かされるといった脅迫めいた顔からも、子供が幼稚園に行くための心配など、悲しいかなどこ吹く風と感じた。
通りも雪は多かった。歩道付近は長靴がすっぽり埋まるほど積もっており、自転車が普通に使えなければ(乗れなければ)バスも当然遅れているはずだからと、自宅から子供を自転車の前後にふたりの子供を乗せ、雪道を延々押して歩いて幼稚園に送り届けてからきた。
子供は寒いだの手足が冷たいだのと言って泣いたが久美は全身汗ずくめだった。
履いてきた長靴は雪が入ってか汗なのかぐっしょり濡れ、足の指は凍傷にかかるぐらい冷たく痛い、ハンドルを握っていた手はかじかみ、睡眠不足も加わって泥のように疲れていた。
何処の旅館でも駐車場の雪かきは重機か男手で行っている。 だが、女将はよそ様に頼んでくれる気配はなかった。
くやしかったが、苦情を言ってみたところで、聞く耳持つ女将ではない。
お客様がお帰りになるまでにはなんとしてもと駐車場の奥の方からと、とにかく懸命に除雪した。
もう少しで雪かきが終わろうという頃になって、雪の中から1万円札が5枚出てきた。
猛吹雪の中、久美は帰り際 確かに宴会が引けてから誰も見ていないこと幸いと女遊びに出かけたものがいたように思った。 吹雪が珍しいのか外で奇声を上げてるものがいたし、車のエンジンがかかり出てゆく音がしたからだ。 飲酒運転。
欲求が満たされ、気持ちが大きくなって1万円札を落したことさえ気づかなかったんだろうと思ったが、今のところ届は出ていなかった。
出かけた先で、いくら使ったのかさえ覚えていない状態で車を転がし帰って来ている。 朝財布を開けても思い出せるわけがなかった。
頑張ったお駄賃だと、久美はそれをポケットに入れた。
あんなに辛かった雪かきが、なんだか楽しくなった。
翌日も同じように雪が降ったが、久美は頼まれもしないのに進んで雪かきした。
今度こそ丁寧に雪かきした。
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雪かきについて
久美の行った雪かきのうち、自宅の雪かきは「剣スコ」で行わざるを得なかったんです。
旦那の理解が足らず、アルミ製の「角スコ」を与えてくれなかったからです。
北の雪はパウダー状で軽いんですが、南の雪は湿気が多くとても重いんです。
よくぞ耐えたと知佳も感心ひとしおです。
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