知佳の美貌録「子供会の副会長」
今般子供会で廃品回収などやらなくなった。 地区にいくらでも増えていく廃品回収業者が設けた収集所。 好きな時に好きなだけ持ち込めばポイントなるものを付けてくれる。 廃棄する段ボールなり空き缶なりを清掃業者に頼ることなく持ち込める利点がある。 狭い自宅に廃品を置く場所の確保すら必要なくなった。 そこで得た何がしかを買い物で使える。 なにも汚い廃品を集めて回らなくてもお金さえポンッと出してやれば子供たちは、それはそれで喜ぶからである。 子供が自分たちで活動費なりを稼ぐ必要がなくなったし廃品で服や手足が汚れる心配もなくなった。 第一 見知らぬほど疎遠になった近所の人々に頭を下げ、たかだか廃品を引き取らせてもらう、そんな無駄手間・・・やめた人の多くがそう思ってる。 が必要なくなったのである。 親子で何かを行うとすれば見た目にも美しい何か、例えばレジャーランドに行くとか楽しく思えることをやろうとする。 それが親子の絆として常識になった。 親が苦労して得たお金、そんなことを子供たちは考える機会すら失った。 楽してお金が得られるようになると廃品のような微々たるお金に目を向けなくなった。 普通に労働して得なければならないお金を、ねだれば他人でもくれるようになった。 家や親の手伝いなんぞ、子供たちは一切 自ら進んで行おうとしなくなった。 これは先進国で見受けられるアルバイトを厳しく禁じたからかもしれないが・・・親や祖先との絆は無いに等しくなったのであるが、その分見知らぬ他人と絆を結ぼうとする(SNSでいうところの出逢い)ようになった。 親ですら得られない高額の何か?を得るためにである。
親が蒔いた種
久美が幼かった頃、廃品回収と言えば子供たちがリヤカーを引いて回収に回るのが普通だった。
それが平成初期になると親が自分たちの車(主に軽トラ)を使って回収して回り、分別から業者への引き渡しまですべて子供に任せず親が行うようになってしまっていた。
そして今、それすら行わなくなった。
子供たちはと言えば、集めてきた雑誌を面白がって読むとか、配られたお菓子を食べるぐらいがせいぜい、ただやみくもに騒ぎ立てるだけになってしまっていて、子供たちのための子供会、子供たちが行う廃品回収とは到底言えなくなっていた。
過去を引きずったような行事が残ってしまったから面倒くさいけど仕方なしに親が出て来てさっさと片付けやったことにしようというもの。
そこにはもはや廃品回収の良さなど認識できなくなっている 子供ではなく親がいる。
過去にあった貧乏暮らしを消し去りたくて、我が子にさえそれをひた隠そうとする親までいる。
こんな汚いものを我が家は置いておかないよと 暗に周囲の父兄に向かって語る親も現れるようになった。 貧乏くさいことは自分を卑下するようで嫌いなのだ。
それを久美は近所の農家に交渉し、リヤカーを借りてきて子供たちに引かせ、廃品を回収する楽しみを教えた。
生まれて初めて引くリヤカーに子供たちは喜んだ。
久美はリヤカーの後ろに小さな子供たちを乗せ、大きな子に引かせた。双方とも大はしゃぎだった。
効果が表れたのはそれだけではなかった。
子供たちが各戸に頭を下げて廃品を受け取ったことで、廃品の数は増えた。
子供たちに頭を下げられ、大人たちは嬉しかったのかとっておきのお菓子までくれる、可愛らしかったからである。
回収日に集まっても、ただ騒ぐだけで手伝おうともしなかった子供を、遠慮よしゃくなく久美は叱りつけ、言うことを聞かなかった子供は自宅に帰れと厳しく言った。
本気になって正当な理由で叱る大人を初めてみたような表情をする子もいた。
友達と一緒になって遊びたかった子供たちは、久美の説教に素直に従うようになった。
頑張ればすぐに褒める。
悪いことをすれば誰の子だろうと親の前で叱る。これを徹底させた久美は、特に子供たちに慕われた。存在意義を初めて認めてくれる大人が現れたからだろうか。
普通なら、廃品回収はものの2時間もあれば終わる。
それがリヤカーになってから半日はかかった。疲れて汗びっしょりになったが、何をしてよいやらわからないまま時間を、ただ潰していた子供たちには良い目標ができたからだろう、働いて得るお金の大切さ、汗の尊さをを素直に喜んでくれた。
回収で得たお金が親たちの交流会に使われていたものを、久美は全て回収したその日に子供たちに還元した。
活躍した順に僅かだが差をつけて。
ご褒美を受け取った子供たちは得意満面だった。
子供会の副会長
当初、久美が住む地区の自治会は町内西地区から少し外れており、どちらかというと東地区に周囲を囲まれ取り残されたような格好になってしまっていて、校区は今に至るも誰も異議を唱えなかったためか旧態依然西地区に所属していた。
だが、西地区は自治会費が高いうえに学校も遠い。久美たちは狭い地区だったためか、それともそれが伝統になっていたためか払ったお金に比べ配当金は極端に低かった。
だが、東は自治会費が少ない割に配当金は高かった。
その理由が、運営費名目で親たちの飲食・行楽費用に充てられるからだと、熱心に聞いて回ってわかった。
そう、あの癒しの湯が沸く温泉旅館で大宴会を催す集団に西地区の自治会も混じっていたのだ。 そればかりではない、研修費と銘打って旅行までやらかしていた。
運営母体が自分たちの楽しみのため浪費し、子供の苦労は無視し続けていたのである。
先にも述べたように、地区の子供たちにとって通学の距離も、西に通うより東の方がずっと安全で近かった。
法の元、禁止されているとはいえ西地区小学校の近くに いかがわしい生業の者たちの住まいがあって、それらしき人々の出入りもあった。 学校を建てるにあたり、大きな空き地をと探した結果、そのような場所しか空いていなかったことが原因だった。
だから子供たちは少し回り道しながら通学していた。
久美はここで、各自治会長に向かって移転の交渉を行った。
西は難色を示したが、東は受け入れを歓迎してくれた。
そこで久美は西に向かって、会費の用途明細を提示要求した。 こんなうわさを耳にしたがと付してである。
示せるはずもなかった。なにかと理由をつけて久美が務めていた旅館にも度々遊びに来ていたからである。
西の班長は、久美の町内の賛成者が多ければ認める言った。 あくまで自己責任は回避したのである。
久美は子供会の会長とふたりで手分けして戸別訪問し賛同者を募った。
3日後、8割がたの賛同を得、集まった名簿を西と東の自治会に提出し、子供会は校区ともども東に移転した。
西の班長はたかが弱小班がひとつ消えた位と鼻先で笑ったが、東は大歓迎してくれた。
たかが借家住まいの貧乏人の久美、それがいつのまにか強い発言権を持つようになっていった。
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