トラックドライバーへの道

職を失ってから後、茫然自失の日々を送っていた。 お金がないのに気が付けば喫茶巡り・・・ 丁度そんな時隣の席に一組のカップルが入って来た。 女が懸命になって男の話しかけてるので聞くともなしに聞いてると、「毎日毎日食事の世話でいやんなっちゃう。 あ~あ面倒くさ!」 「何かにつけ頼ってばかりいるってウチのこと非難がましく言うんだよね」 家事をやるのが嫌で嫌でたまらない風にこの言葉を繰り返す。

「すんごい大きいんだね! 俺って普段台所使うのめんどくさいから、適当なもの買ってきて、それで済ませてるんだ」 こうも言った。
「何か食べたいときは外で食べることにしてるから、食べる量って少ないんだ」 と。
「そうなんだ・・・ ウチだって自分で作るんだから食べる気がしない。 だから小食」 負けじと返す。
「ウチのひと、毎朝6時半には犬連れて散歩に出かけるの。 仕方ないから起きて朝食作って待つのがいつもの日課」
たまには憂さ晴らししたいから今日逢えて良かったと、ここまで聞いて恋人同士じゃなくH目的の婚外恋愛だったんだとわかった。
入ってくるなりメニュー表に首ったけでバーガーを選んだは彼女だった。
終始彼女中心に会話が繰り返されていて、男は嫌われないよう気を使いながら相槌をうつ。
見ただけでうんざりするような量のバーガーに見た目華奢な男が手を伸ばせないでいると、これまた相当量のサンドイッチが運ばれてきた。
むろん食欲満点の彼女の分だ。
「凄い量だね!」 「うん、余ったら食べてくれる?」 と、ここまでは良かったが・・・
「ねぇ~、デザート何にする? 何か頼んでいい?」 と聞く彼女。
「あぁ・・・食べてみないとなんとも・・・」 バーガーを前にし口ごもる彼に 「食べれないの?」 と不機嫌そうな、それでいて畳みかけるようなひと言。
「大丈夫だと思うから、頼んでいいよ」 「そう! じゃ払ってね!」 現金なもので早速ウエイターを呼び寄せる彼女。
「ご注文は・・・」 とウエイター 「あのね、ケーキセットと・・・ あなた飲み物にする? 何がいい?」 強引に彼の分も注文してしまう。
夫が隣にいないことを良いことに独り身の男に強引に迫る人妻。
男はワレメさえ魅せればその気になって抱いてくれる。
自分にはこれが足りなかったんだと反省させられた。
ひょっとしてこのカップル介護関係の同僚か何か?
でもその様子からして人妻の彼女は子供の有無はわからないけど不倫したく待てなくてすぐにでも抱いてほしいってせがんでて、独り暮らしの男は飲食代はもちろんだがホテル代も自分が持つのかと、抱きたいのはやまやまだがお金がもったいないような気がして悩んでる風に見え・・・
”しっかりしてよ!” お互いがだけど不自由してる貴方は人妻でもいいからこの際ハメたくてしかたないんでしょ? ラブホじゃなくたって自分独りで借りてる部屋があるんだから、そこに連れ込んで抱いてやれば喜んでくれるんじゃないと、観ていてやきもきした。
”彼女が腰掛けてる椅子がワレメから溢れ出たシルでヌレたらどうするの?” と言ってやりたかった。
それと同時に「こんな女と深い関係になり一緒に住むことになったりしたら後悔するわよ!」 と言ってやりたくなった。
”人妻でありながらも昼間堂々と不貞を働く、家事をそっちのけにし独り者をわたしが隣で一部始終聞いてるのに狙うか!”
こう言いかけて自分で自分を非難してるような気がして・・・
こんなことしてる間に何か職を探さなくちゃ! 思い立って急いで店を出た。
何処をどう伝い歩いたのか自分でも覚えていない。
気が付けば地元の食品製造業のスーパーめぐりのトラックドライバーの仕事にありついていた。
当時としては珍しかった中型トラックを運転してのルート営業の仕事に就いていた。
人づきあいが下手だから、運転しながら遠方周りはどちらかといえば性に合っていたのかもしれない。
ルート上で気がむしゃくしゃすれば例の出逢い系にちょっかい出すこともできたからだ。
ただしこんなやり方だから、わたしが担当になってからシェアは徐々に減っている。
そこらあたりは、会社の上司が時々出向いて何とか引き留めていてくれてはいたが・・・
男の職場に女が割り込んだことでわたしが商品を置く陳列棚を他の業者のそれよりずっと目立たない端に追いやるなどの嫌がらせを受けたのだ。
反面ありがたかったのは、事務所に帰ると ドライバー連中は男ばかりだから何かとモテた。
例えば疲れて帰ったとき、サッと目の前に缶茶を置いてくれ、横に座ってくれてなんやかやと気持ちが盛り上がる話をしてくれるし、荷物の積み下ろしなんかも半分は頼みもしないのに手伝ってくれる。
出勤スタイルや、普段の服装がパンチラのミニからゴツイ作業服に一変して見た目も中身も同一人物なのかもわからないほどおばちゃんドライバーになってしまったけど・・・。
最初は午前、市内中心のメインスーパーへの配達が主で、午後になって山間部の小さなスーパー廻りを受け持った。
市内は上司の睨みがきいていて、単純に荷物を持って行って店舗の指定の場所に陳列し、伝票を切ったらそれで終わりだった。
難しいことと言えば狭い路上や駐車場でのトラックの操りだったが、元々運転は嫌いな方じゃなかったので難なくこなせた。
ところが山間部では配達以前に集金が主な役割になった。
売り上げがない、売った分のほとんどを家計に回してしまうようなルーズな人たちが多い。
それだけ生活が切羽詰まっているんだろう。
それをなんだかんだと言いくるめ集金してくるものの日を追うごとにツケが貯まる一方。
何度訪問しても、品物を置いてけとは口にすれど、売った品物の代金を業者に払う気は一向にないらしい。
売り上げが小さい分、将来性が不透明な分上司もわざわざ集金や挨拶回りに出向いてまで来ない。
開始半年でやっと顔なじみになったと思えた担当部署を変えられた。
こういえば簡単に受け持ちが変わっただけと思うかもしれないね。
地方の営業っていうと、そこの地図を覚えるだけでも大変で、道を間違ったり、順番間違うと時間までに帰社できなくなるんだ。
約束の配達時間にも遅れてしまうことになる。
競合他社が特売日を打つようなことが重なると地元産と有名業者の差がそのまま出て店でのシェアが変わる。
なのに、こういった場所にある店舗は、必ずと言っていいほど余分な手伝いをさせられる。
商品を置いていき売り上げのパーセンテージを受け取る方法と買い取りというふたつのパターンがあるが、その買い取った商品の品出しを手伝わされるのだ。
短時間派遣社員のような仕事で、こうなると次に届ける店への配達時間が大幅に遅れる。
おにぎり片手にハンドル握って配達の日々が続いた。
そんなある日、あんなにちやほやしてくれていたドライバー仲間のひとりから罵声を浴びせられた。
「お前なー どんだけトロイんや、人様に迷惑掛けやがって!!」 配達が間に合わなくなった担当個所を仲間が手分けして配ってくれていたのだ。
働き過ぎと思い込んで、途中でトラックを止め延々休憩を兼ね出逢い系にうつつを抜かしていたツケが回ってきたのだ。
担当の荷物を蹴飛ばされた。
積み降ろししてくれることは既に無くなっていた。
謝るしかなかった。
こんなことが続き最初に比べ、配る店舗数や配達物の数が半減してたが、その分 走行距離は何倍にも伸びた。
仲間がカバーしやすいように会社からほど近い区域から担当を外されたのだ。
配達区も東の端ばかり配らされ、店舗から店舗の間が遠すぎてひたすら運転だけが業務になっていた。
いつの間にか、隣県他社との競合に県境付近にばかり駆り出されるようになっていった。
「女の顔で売ってこい」 女への偏見が根強いからこそ物珍しがられ売れる僻地の店舗。
これがその理由だった。
女だてらのドライバーとは言うものの時間から時間働けばよいタクシードライバーと違い、早朝から回っても帰社はいつも20時を回っていて、着いてから売上金の納付や伝票整理が待ち受けているが、営業職に当時残業代は出なかった。
給料が少ない分、商品の賞味期限切れを安価で給料天引きで半強制的に買わされる。
帰宅が深夜帯に近くなるんだから家の買い物などしていたら夕食に間みあわない、だからそれが連日食卓に並んだ。
夫婦とも憂さ晴らしの酒が増えた。
元々肉派の食卓だったから夫も子供も誤魔化すことができよかったが、以前にもまして主婦業から遠ざかっていった。
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