別荘の和合好きな官僚婦人

横山了が会社に慣れてくると上司の長瀬は彼を気晴らしと称して紅葉に染まる渓谷に連れ出しました。
ほとんど手つかずの自然が残っている渓谷散策は、これまでのすさんだ生活を送ってきて世の中に対する疑心と憎しみしか残っていなかった彼の回帰を願って連れて行ったんです。
よくある話に、遠国に遠征を重ねた武士たちは決まって、故郷に帰ると真っ先に子作りしたと言います。
孤独と、それに伴う生死をかけた戦いののちが一番精気が漲るという言い伝えがありました。
業界に追いまくられ逃げ惑う凄惨な日々、それを戦いと見立て恐らく性的に抑圧された日々を送っていたんじゃないかと思ってここに連れてきました。
そして、彼を裏切り去っていった憎き妻への想いときっぱり別離させるためのものでした。
それらを森閑とした森や渓流が忘れさせてくれ、男としての活力を思い起こさせてくれはすまいかと大自然をあてがったんですね。
シンとした孤独の中に浸り、生き抜くために自然界に戦いを挑むと男性機能は思いがけないほど復活するそうです。
それを長瀬は横山に体験させたんです。
頃合いを観て女をあてがえば狂ったように肉に身体を埋めようとするんじゃないかと考えたんです。
更に、運よくオトコが復活してくれたなら組織としては彼にどうしてもやってもらいたいもうひとつの目的があったんですね。
この渓谷、森の木々と悠久の流れ以外何もないように見えて、ひとつ丘を越えたところにポツンと一軒家・・・じゃないんですが都会の喧騒から取り残されたような山荘があるんですね。
それが今回長瀬が目を付けた官僚の別荘で、しかもこの時期官僚は多忙を極めて留守がちなのに官僚が狂ってやまないご婦人は山荘に独り残ってのんびり紅葉を楽しんでいる風を装っていたんです。
もちろんこんな山奥のこと、官僚はこれっぽっちもこのご婦人の不貞など疑っていません。
そこがねらい目とでもいう風にご婦人は山荘に籠り、森閑とした世界に耐えられなくなると長瀬を伽に呼び寄せるんですね。
思わせぶりに胸を大きく開けたようなドレスを纏い、悠然と長瀬の肩越しに後ろから現れ、艶めく仕草で正面やや左に座り小悪魔的な視線を投げかけるんですね。
脚を組み替えるときにチラリと魅せてくれるドレスのスリットの奥の秘めやかさに終始前が突っ張って困ったと言います。
脂汗を垂らしながら応対するものですから終いには風呂やシャワーをご婦人は薦めてくれます。
これ幸いにお借りしましたが、嫉妬深い官僚は浴室に目視では確認できないようにカメラを設置していましたので、ご婦人には健全な肉体を拝ませてあげましたし、着替え用のガウンやバスタオルを置いていってくれてましたので、出来る限り見えやすいように脱衣籠の上の方に下着を置いておきました。
手に取ってさっと匂いを嗅ぐと急いで立ち去り、入浴が終わるまで残りの時間を使ってモニターで視姦していたようでした。
きっと山荘にお邪魔している間中オトコが欲しくて堪らなくなっていたんじゃないかと思うんです。
会社の為にも、そして長瀬が頭を務めるグループにためにも堕とさねばならないオンナだったんですね。
ところが狙い始めてからこれまで、グループ内の例の男たちでは適材適所とはいかず、手が出せないでいました。
そう、ご婦人が望む男とはガタイばかり立派ではなく、知性と教養を身に着けておらねば話し相手にすらならないからです。
性交することが出来れば媚びをうってくれるでしょうが、失敗でもしようものなら警戒心を抱かれ近づくこともできなくなります。
横山の入社は千載一遇のチャンスだったわけです。
官僚の夫とは20以上も歳が違うのに結婚できたわけとは、ひとえに彼の資産目当て、それが世間からみた彼女への感想でした。
ブランド物以外身につけない、同じ服で正式な場所に出入りしない、軽々しく頭を下げないというのが彼女のモットーなのに、パーティーなどで出席者の中に好みの男を見つけると目つきが変わるという、いわゆる和合に興味を抱くと思える女だったんです。
誰とどんな会話が展開されていようと男への視線を逸らそうとしない、
常に目を付けた男との距離を開けないようにしようとし、
彼と視線が合うと表情がとても豊かになる。
そんな典型的なオトコ好きご婦人をある日警護することになった長瀬は、とうとうご婦人と件の件についてご相談に乗ることが出来たんですね。
自ら進んで山中にある別荘に来たには来たんですが、物語に出てくるようなアバンチュールに遭遇できなくて苛立ってるようなご様子でした。
肝心な部分を表向きに語っていただこうとすると - 留守番するために嫁いだんじゃない - 孤独を紛らす何かが欲しいの一点張り。
それでは孤独を紛らすご趣味はと改めて聞くと映画だの演劇だのの鑑賞と視線を僅かに逸らしながらおっしゃるんですね。
そのいづれも悲恋ものというんです。
ははぁ~ これは不貞の恋に心焼かれつつ堕ち、くだんの男に妬かれてみたいということなんだな、と感じ取った訳なんですが、肝心なのはそれじゃあオトコは誰を派遣するかということでした。
相手が官僚のご婦人というからには表立っては政治経済に明るくなきゃいけないし、話しが進めば絡みも充実したものでなければ納得していただけない。
そこいらの、ただ単にイケメンでガタイが素晴らしいだけの如何にも軽々しいホストではこなせないと踏んだんです。
そこで目を付けたのが優良企業の元戦士で、同じような境遇下 男女関係によって妻を他人棒に捧げた横山がうってつけだったんですが、孕ませ具合はどうだったのかという点が肝心で、そのもっともご婦人にとって好都合な条件が交雑不和合性だったわけです。
交雑不和合性とは生殖行動は普通に行えるが互いの因子が適合せず孕ませることが出来ない関係を言います。
ご婦人が求めているものはキワドイ関係で生姦・中だしは必須ですが、孕ませてしまっては苦労も水の泡になりかねません。
つまり寝盗られた元妻は独身時代セフレの胤を宿してしまって堕胎を行っているほどに孕みやすい体質だったんですが夫婦関係にあった横山との間に子はついぞ出来なかったということは胤が薄く孕ませにくかったんじゃないだろうかと危ぶんだわけです。
反面、もしかすると彼にはある種の女性だと簡単に孕ませることが出来ても、芙由美のような女性だと孕ませにくいんじゃないかという考えにも至った訳です。
夜ごとの夫婦生活がゴムということはあり得ないし、夫婦間でアフターピルなどということもあり得ず、付近のレディースクリニックをしらみつぶしに当たり、また、彼女に堕胎施術を施した柏木優美に問うても、それは無いとキッパリ言い切ったことから好きモノの芙由美のこと、生を望んだ時もあったとだろうと柏木保健婦は言います。
そこで柏木優美の提案で元妻芙由美のDNAと別荘のご婦人のDNAを比較させてみたんですが、これがピタリと一致したんですね。
上手下手は別として河川敷で共に暮らしていた女どもが見聞きしたところによると、立派な棹を携えていて朝立ちは相当雄々しかったと語ってくれましたが、それでいて不思議と女どもに自分さえ良ければという風な状況下では一切手を伸ばしてこなかったといったといいます。
いくら隠れ忍んで暮らしていると言ってもそこは散々恩を売っているし、しかもお隣さん、それも男相手に春を売る女たちが相手のこと、色めいた話も時には出ようというものなんでしょうが、一切そういった話はしようとせず、もっぱら生活にかかわることばかりだったそうです。
つまり窮屈そうで見ておれなくてヌイてあげたというのは、せいぜい手コキだったんですね。
気持ちが募れば男女の中だから間違いも起こる。そこを詳しく答えさせようと質問したんですが、
横山は一度たりとも女に手を伸ばさなかったというし、女を買うために出かけて行った様子もなかったと答えたそうです。
汚してしまった洗濯物は自分でちゃんと小まめに川に持って行って洗って天日で干していたといいますし、
女房役という点でも情けないかな女どもが手伝うことも出来なかったと答えたそうです。
胤無しか或いは胤自体が母体の適・不適を判断し自制を効かすのか、長瀬はそれを自制が効くと捉え白羽の矢を射たんです。
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