知佳の美貌録「人生相談」 生活保護一歩手前の苦悩

あの頃のお母さんってまるで怒鳴るようにまくし立ててた。末娘の留美が語る偽らざるあの時代の感想だ。
一家にとって唯一の団欒の場となる食卓で、今日も久美は旦那を相手にまくし立てていた。
勿論旦那は言われていることをちっとも理解してない。だが不思議と合いの手だけは打つのである。久美にとっては腹立たしい事この上ない。
その、叱られている当人は反省するどころか大皿に盛られたおかずをひとり抱え込んで、しかもそれだけでは足りないような顔つきをしつつ食べ、酒を呑み、タバコを吸っていた。
子供たちは仕方なくご飯にふりかけをかけボソボソと食べていて、一家の大黒柱である久美は もうそれだけ用意するのが精一杯、食べ物が何処をどう探しても無いのである。
久美は
それこそ缶詰め状態で支配人室に籠ることが多くなった。
例の支配人室に忍び込み不貞をやらかしたような土地の百姓女どもはホテルが左前であるなどということはとんと知らない。
彼女らの間で、ふたりについて様々なうわさが飛び交った。
それはそうだろう、人里離れた山奥に若い女が舞い込んでくれば当然男どもの目の色は変わる。
連日、徹夜して資料を作り
朝方4時頃になって麓の自宅に社用車で送り届けてもらう。
懸命に家事をこなし
9時前には待っていてくれた車で再び山に登る。
噂にならないほうがおかしいような生活を送っていながら、
百姓女に手を出す程飢えているはずの支配人との関係は仕事のこと以外何ひとつ進まなかった。
支配人はもともと地元の人間ではなく、
どちらかと言えば高級優遇につられ
全国を飛び回るタイプ
自分の汚点になるようなことは決して口にしない潔癖の人だった。
おばさんと一夜を共にしたのは熟れ切った女をこれ見よがしに魅せつけられ、個室ということもあってつい魔が差しただけだった。
それに比べ、フロントマンなどは機会あれば手を出さんものと、何かにつけ上げ膳据え膳で言い寄った。殊にボイラーマンの町議は
時に周囲から相談され
解決に至らなかった問題や、
夫婦間の悩みなどを、心を開いて語ってくれたものだから他に抜きんでて親しくなっていった。
彼の名は篠原と言った。
地方では有名な議員一家で浮いた噂が無いでもなかったが、この時の久美は世間知らずでまともに信じようとしなかった。
共通の思い出話もそつなくできた。
酸いも甘いも嚙み分けることが出来るしっかりと地元に根付いた人のように思えた。
久美も篠原も連日不眠不休で働いているにもかかわらず
家計は火の車で、久美の夫・篠原の妻は現状を正面から見ようともしない。
その、行き場のない気持ちを町民の生活を預かる町議として下心を包み隠し、ひたすら相談に乗ってくれた。
住む町が違うので、生活保護について手を貸すようなことはなかったが、
久美の、家庭や親戚・父母との関係についてなどなど愚痴を聞いてくれた。
それらすべての人間どもが、久美が英知を働かせ稼ぎ出すお金と
懸命に身体を酷使する。 それをさも当然のようにあてにして遊び暮らしていたからだ。
彼は我が事のように憤ってくれた。
例えば、不眠不休で働いて帰ってきた久美に、
夫の実家から痴呆が進んで、しかも癌を患って入院せざるを得なくなった義父の、
看病をしてほしいと言ってきた。連れ合いは働かずして家に籠っているのにである。
自分たちは仕事が終われば、例えば飲酒運転で捕まった時のような
宴会じみたことを連日繰り返していながらも、
病院への見舞いに行こうとすらしなく、
それを、独楽鼠のように動き回る久美に押し付け、平然としていた。
どんなに雨が降ろうが、雪の日であろうが、
久美は自転車で駆け回ってこれをこなした。
そんな愚痴を、ボイラーマンの篠原は真剣に聞いてくれた。
いつしか肉体的にも、精神的にも疲れると、
久美は地下のボイラー室に駆け込んで
置いてあるおんぼろの長椅子に仲良く並んで腰かけ
篠原に寄り掛かりながら寝込むようになっていった。
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