知佳の美貌録「良き理解者を得て」 町議に身を任す日々
生まれたばかりの我が子が、少しでも泣いたりぐずったりすれば、夫の母 つまり義母は血相を変えて怒鳴り込んできて出来の悪い嫁、学のない育ちの卑しい嫁と久美をなじった。
生まれたばかりの子供を泣かさないよう、あの母がかつて実家で自分たちを育ててくれたように息をひそめて住み暮らした。
茨城県にお住いの老健ナース シゲチャンから「イイね!」をいただきました。
ひとつしかないトイレは もよおしても様子を見ながら行かねばならなくなった。
出産直後とあって我慢しようにも限界がある。
3日目の深夜、我慢できなくなって子供が寝ている間にトイレに潜んだ。
夫の実家は、それでなくとも10人がひしめく、昼間は 特に朝はトイレに空き間がない。
我慢し続けたことで、出るものも出なくなってしまっていた。
やっと出かかったとき、小さな泣き声が聞こえた。
刻々と時間が経過するうちに、とうとう子供がぐずり始めた。
それを聞きつけた姑が、いきなり怒鳴り込んできた。
深夜というのに、気が狂ったようにトイレのドアを叩いた。
「この夜更けに、子供が泣いて近所迷惑だというのに、そんなとこで何してるんだ」
我慢の限界だった。
夫が仕事に出かけた隙に、タクシーを呼んで荷物をまとめ、自宅に帰った。
夫の職場には、
「自宅に帰っていますと伝えていただけませんか」と伝言を頼んだ。
上の子が生まれた時もそうだったが、2番目の子が生まれてからも、夫は何ひとつ手伝ってはくれなかった。
産後お世話にならざるを得なかった夫の実家で夫は、子供と久美が寝る部屋に就寝時いず、何を思ってか実の母親の部屋に行き仲良く床を並べて寝る始末。
知恵は勿論の事人間性も、これ以上ないほど親子ともども欠けていた。
産後4日目にして、炊事洗濯、買い物や育児まですべて久美の肩にのしかかるが躰によくないと分っていても自分でこなさなければ誰も手伝ってはくれなかった。
上の子の、幼稚園の送り迎えも、下の子を寝かしつけてる間に家を抜け出し自転車に乗せ送迎した。
同じように買い物も、子供が寝ている隙に急いで自転車をこぎ済ませた。
どんなに荷物が重くても、全て久美ひとりで持ち運んだ。
産婦人科で1ヶ月健診が行われた。
子供の健診が終わって帰ろうとすると、必要ないはずなのに久美は呼ばれた。
この病院で久美はすっかり有名人になっていて、生活実態まで把握されてしまっており産後の肥立ちについて心配してくれたのだ。
傍から見てもやつれが目立っていたからに相違ない。
「わたしはいいです。 先生、今日は子供の健診でしょう? 診察受けても払うお金無いし・・・」
「そんなことは分かっている。 私が言いたいのはあんたの身体のことだ」
見た目にも、その歳で腰がずいぶん曲がっているんだ。
「まだ20代だぞ。 これではまるで老人だ。 一体どんな生活をしたら、こんな風になるんだ?」
「そんなこと言ったって先生、どうしろとおっしゃるんです?」
そうだったな。 聞くところによると、入院中 ご主人は一度も顔を出されなかったと看護婦から聞いた。
「だが、無理はいかんぞ。食べなきゃいけないものはちゃんと食べ、しっかり寝るんだ。 今日はもう良し、帰っていいぞ」
先生に言われなくてもわかっていた。
乳飲み子がひとり家に残されてるというのに、母親は狂ったように生活費を求め、或いは買い物や幼稚園の送迎、はたまた通院に駆けずり回っているのだ。
それなのに、夫は職場である実家の仕事が終わるとそこで夕食を食べ、酒を飲んでそろそろ世間の人たちが寝るころになるとハンドルを握って家路につく。
帰り着くなり子供のことはほっといて真っ先に風呂に入ろうとする。
湯上り後は一直線に酒瓶のもとに行き勝手にコップに並々と注いで呑む。
コップに並々と注いだ酒をあおりながら暗に肴の要求を目顔でする。
出したくても子供に食べさせてやるのが精一杯で自身の夕食のおかずすらないのにである。
仕方なく久美は何がしかを求めて深夜の町に出かけ見繕って持ち帰る。
もちろんただであるはずもない。頭を下げツケで頂いてきたのだ。
それを知っていて、それでもそれら全てを酒の肴にし、深夜まで延々酒を飲む。
夫が酔いつぶれ、寝静まってから子供たちをふろに入れ、風呂掃除や夫が脱ぎ散らかした作業衣の洗濯をした。
産婦人科の院長が呼び止めるのも無理はない。やせ細った久美だが口に入れられるものと言えば、もうほとんどなかったし、家事に追われ横になれる時間は明け方の数時間だけだった。
劣等感の塊のような男である夫は胃拡張と診断され、それが原因で常日頃吐き気が収まらないんだと医師からつげられても、なおも食べ物を口に運ぶのをやめようとしない大食漢だった。
レントゲンに黒く影が残るといわれてもその忠告を受けたストレスでたばこの本数は増えるこそそれ、一向に減る気配がない。
( 男を作って子供を捨てて夜逃げした母親と、酒に溺れ子供に集る父親がいて、まともな結婚なんてできるはずがない )
義母から常日頃そう言われ続け、自分でも普通の人との結婚なんて諦めるしかないんだと思い込んでいた。
そう思って何事につけ諦め過ごしてきた久美だった。
全ては自分が悪かったのだ、久美は自身に言い聞かせ、病院を、弁護士事務所を、解雇になった職場を後にしてきた。
だが何故だか周囲の人々は、この久美の気の強さを利用する。
もがけばもがくほど、苦しみは増すばかりだった。
人の良さを利用され、いつの間にかサラ金の借金は利息を含め2千万に膨れ上がっていた。
そのことを、高原ホテルのボイラーマンであった篠原はじっと聞き入ってくれた。
いつしかその、優しく接してくれる篠原の肩にすがって、話し疲れた久美は寝入るようになっていった。いや、溜まりたまった疲れから気を失ったと言って良いかもしれない。
目が覚めた時、久美は篠原によって強く抱きしめられていた。
拒否はしなかった。
( 私みたいな女の言い分に反論することなく、じっと聞き入ってくれ、優しく抱きしめてくれる。こんな優しい人が世の中にいたんだ! )
久美の中の、何かが壊れ、そして新たな何かが始まった。
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アップデート 2024/06/05 06:05
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