知佳の美貌録「似たもの同士」 放浪する母

ある日突然店先に見も知らぬ女が現れた。店主にすれば大衆酒場を開いていて、訳アリの人妻が自ら進んで転がり込んでくるとは思ってもみなかった。
見るからに食い物が無くて困り果てた末に転がり込んできた女である。
翌日から店の看板として与える仕事はともかく、己自身不自由なく女を抱けることにほくそ笑んだ。

男を追ったとはいえ、どこそこで落ち合おうと予め取り交わしたわけではないからだ。
ただただ男恋しさに、好子の方から家を勝手に飛び出し、聞き覚えのある場所にい向かって夜汽車に飛び乗っただけであった。
女とは得てしてこういった行いをする生き物、
高原ホテルで先々の事を考えずボイラーマンに身を預けた久美のように。
身の回りのもの一切持たず飛び出した好子は列車の乗務員を誤魔化し無賃乗車を続けることには長けていたが、食うや食わずの貧乏家から飛び出したものだからお金を持ち合わせていなくまず食べ物に困った。
怪しまれないよう普通列車を乗り継いでいくものだから時間ばかりが過ぎた。
水だけなら駅舎のトイレででも水道の蛇口から飲めようものを、如何に空腹であっても好子は水で腹を満たすようなことはしなかったのである。
あれほど久美たちに困難を強いておきながら自身は路上生活のようなことはただの一度も経験したことがなかったのだ。周りの男が全てにおいて賄ってくれたからだ。
一般人が良くやる食べ物を得る方法が、今にして思えば女衒に花街の事だけ仕込まれて育ったものだから分からなかったのである。
仕方なく好子は、勝手知ったるなんとやらで誰かとなりに座る男に艶目でも使ってと、途中下車して大衆酒場の暖簾をくぐっていた。
軽い気持ちというより、空腹に耐えかね、思考が鈍ってそれ以上考えが及ばなかったからである。こうしてまんまと酒と肴にありついた。好子は酒豪で吞めば吞むほど頭が冴えるが、客は人妻を堕とし良い想いをしようと酒をすすめる。店内は大宴会のようになってしまった。店主は有頂天になり好子は得意満面になった。が、
それが困難の始まりだった。
田舎ならではの、強請集りに長けていた女衒と夫がいればこその人妻好子、目の肥えた都会人にはみすぼらし身なりをし 男に飢えた女とでも映ったのだろう、それでなくともなけなしの金で酒を呑んでる連中の事、誰も抱きたいと思いこそすれともに助け合ってなどと目に止めてはくれなかった。店から出ようと誘ってはくれるものの、もうその時は空っけつ。送り出すしかなかった。
客と連れ立ってそのまま店を出たりすれば、それこそ無銭飲食。店外で橋の欄干に掴まり後ろから・・などとはいかなかったのである。
かつての官憲による拘束の日々が思い起こされた。
仕方なく自分の飲み食いした分 店主に事情を話し、雇ってもらうことにしたのである。
賄いつきとはいえ、横になるスペースがやっと確保できる2畳の部屋があてがわれ、そこに住み暮らすこととなる。
酌婦とか座布団芸者と人は呼ぶ
顧客相手にたとえ一杯でも多く酒を呑ませるため給仕とも酌婦ともとれるやり方で近づき、終いには上の階に案内する。
合意の証拠と併せ腰に乗る男の膝が畳で擦りむけないよう座布団を敷いてコトに至る。
そうやって顧客を店に縛り付け、自身は小遣い稼ぎを行った。
官憲が調べに来ても、恋心が芽生えたのなんだのと言い訳をする。
湯屋につけ飲み屋につけ、よくこの方法が用いられた。
国が定めた遊郭でなければ男女のまぐわいは許されていなかった。そこでこの方法が用いられた。
埒もなく男が襲ってきたわけではなく、芸者(酌婦)が敷布団代わりに座布団を敷いて男の侵入を待ち受けてくれていると、
いわば合意の上での淫行、恋愛感情の上での結合と言い訳が経つ、私娼だが所詮春画がもてはやされる文明、これが半ば公然と許された。
最初から意図したわけではなかったが、今夜泊まる宿もなければ金もなく、ましてや空腹に耐えかねる有様。
確かにあさましくも店主にそれとなく好子の方から持ち掛けてはいた。
だが当の店主の返事、そこに居も食も、ましてや久しぶりの男さえもあてがってくれるとなればかつて、学生にまで手を出すほど、当時としては貴重だったアレには飢えていた好子である、飛びつかないわけにはいかなかった。
ご相伴に預かった店主としても、まるで狐につままれたような話である。
美形の人妻、それも町屋のそれと違い身体を張って働いて鍛え上げられた肉体でもって向こうから進んで挿し込む愚息を押し包んで扱きあげてくれる。
したたか吐き出した。たちまち夢中になった。給金を当面払わなくてもよいというのが益々気に入った。
翌日から働き出した久美の母親好子はみるみる頭角を現した。
幼いころより旅館や料亭の賄い方に出入りしていた経験がある。
客あしらいも巧ければ調理の腕もピカイチだった。縄暖簾にまるで不似合いな手の込んだ料理を、いとも簡単に造って出してみせたからだった。
たちまち評判が評判を呼んで、店は大入りとなったが、これには深いわけがあった。
それはそうだろう、美味しいものを散々飲み食いし、腹が満ちたところで別部屋に誘われ、たった先ほどまでもてなしをしてくれていた訳アリ人妻が抱いてくれとせがむ。
それも、コトが始まると一層女の方からせがむ。挿し込む方の男としては堪えられない。
好子の方も根がオトコ好き、毎晩誰かが押しかけ、乗っていっても愛想・サービスが減るどころか増すばかり、そうするうちに男の間で女の奪い合いになっていった。
これを男連中ではなく、むしろ好子の方こそ自慢げにした。
周囲を囲む男たちの熱い視線が常に自身に向かって注がれていることに優越感を抱いた。
商売繁盛と色欲の狭間で、雇い主の店主こそ苛まされた。
その噂が周囲に知れ渡るころ、どこをどうやって探し当てたのか店に亭主の幸吉が現れ店主を強請った。
酒の勢いにあかせ、店主に向かって殴る蹴るの暴行を働いた。
またもや好子は夜逃げせざるを得なくなった。
店主へ一言も詫びず、その夜の内に店を去って いずこともなく消えた。
座布団芸者とは
通常芸者とはお客に座布団を勧めても自身は座に直に座る。それが礼儀とされている。
座布団に座らされるのは脱ぐか勝負に勝つかを賭ける時のみであり、負けたらその負け分衣服を脱がされることになる。
つまりストリップの代償として座布団に座れるのであるが・・
この場合予め用意された2階の部屋にさりげなく男を通し、男の前で芸者然とした好子自身が進んで座布団に座る(身を投げ出す)行為を云うが、好子の場合芸事とは絡みを云い、芸妓は出来ないので客が据わるに先んじて座布団に座る、すなわち芸が無いのを認め恋愛であるが如くほのめかし客に座布団から追い出すように仕向ける。当然押し倒されることから身を投げ出すと称したのである。
一杯飲み屋などが2階の座敷を使ってこれをやる。明らかに人妻と思える女を押し倒す。そうさせることで男をより一層興奮へと誘うことが出来る。こうなると我も我もと先を競って好子を抱きたがる。これすなわち商売繁盛目的の私娼なのである。
枕芸者とは
座布団芸者に対し、あくまでも表面上はお客の前で芸事をこなし、座敷が跳ねてからお客の部屋などに呼ばれて行き、文字通りそこで逝くこと、二股を芸とする芸子、殊に表芸の実力はほとんどなく、もっぱら寝る芸に長ける芸子をそう云う。
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