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愛のみに揺れて生きる女

 他人様の女房を寝取ろうとするような輩にとって何が嫌かといえば、それは恋焦がれる女が他の男相手に欲情に駆られ抱かれている姿を、挿入の瞬間を魅せ付けられることほど辛いものはないのではないでしょうか。

 それも女の方が相手が旦那である無しに関わらず男に夢中になって積極的に奉仕している姿などを見せられた日にはこれ以上ないほどの嫉妬と怒りを覚えるんじゃないでしょうか。 女にとって逆もまた逆もまた真なりなのです。

 生中に満足し自分への興味が多少失せたように感じられた雅子さんは放精後茫然とする寛治さんを置いて独り寂しく帰途についています。

 この時点で雅子さんにとって寛治さんもどちらかといえば紙屋 (かみや) の家人たちとそう違わないように思われてしまったようでした。 入れさせてもらって出すことが出来たら満足しそっぽを向く普通の男と思われてしまったようでした。

 そしてそれから数日後の深夜、またまた膿が溜まって混乱が起き触れ合いたいと忍んできた寛治さんに向かって雅子さんは仕返しの想いを込め夫の直己さんとの和合を長時間にわたって妖艶な演技たっぷりに魅せ付け寛治さんを苦しめたのです。

 好きなようなフリし締め込みに持ち込ませた挙句自分だけ満足し放置したらどうなるか、身をもって教えてあげたつもりでした。

 この作戦はある程度当たりました。

 女性と違い男性は視覚的な刺激による欲望の上昇は殊の外激しいものがあります。

 自分が相手に成り代わって雅子さんの胎内に注ぎ込みたいと願いました。

 あれほど頑張って半病人から健常な女性へと蘇らせたんです。

 その矢先最大の功労者である寛治さんの目の前で、当然と言えば当然でしょうがご主人の直己さんは雅子さんに欲情し彼女の胎内になんの躊躇いもなく大量放出したんです。

 この結果寛治さんは雅子さんが理想とする方向に舵を切りませんでした。 裏切りに激怒しとんでもない復讐に出たんです。

 女性は愛に関してはとても敏感であらゆるところに網を張って自分により良い情報を得ようと努力しますが、自分たちの生活を支える根幹である財源の出所については面倒なのかほぼ思考をめぐらしません。

 あって当然と思うからとか、考えてもそれに見合う気力体力が湧いてこないからとかいろいろと理由はあるでしょうが、愛を (つまり性行為を) 通じてのみ財源を確保しようとします。

 雅子さんも恐らく生まれついてこの方そうしておれば良いと誰かに言い聞かされ素直にそれに従ったのか典型的な愛のみ追及するタイプじゃないかと思えるんです。

 入谷村の経済は如何に本家筋とはいえ雅子さんの思考にある、あって当然と思うような遅れた考えの紙屋 (かみや) や中 (なか) が支えていたわけではありません。

 近隣の村や町を回り情報を入手しそれに沿って動かしていた原釜 (はらがま) が代々回していました。

 本家筋とは言っても力関係や知力は原釜 (はらがま) に比べ他の2軒は大いに劣っていたからです。

 試し掘りのような思考のもと雅子さんは寛治さんを舌の根というよりアソコも乾かぬうちに裏切り鞍替えし、しかもそれを信じ切って覗き見に来た彼に夫婦の和合を魅せ付けてたのです。 姦通の仲であるとはいえ、こんなことをすれば寛治さんが怒らないわけはありません。

 寛治さんは復讐の一環としてまず、下手な経済運営と浪費で立ち行かなくなった他の2軒への融資をことごとく断りました。

 その上で入谷村の維持運営費を原釜 (はらがま) 家がその威信にかけて供出するのではなくそれぞれの地区割で責任を持つ方法に変えたんです。

 つまりこれまでの流れからすると中組 (なかぐん) の足りない部分は本家筋である紙屋 (かみや) が出すのが本筋と常会で発言したんです。

 烏合の衆の本家以外の人たちから違う意見が述べられることはありませんでした。

 これで紙屋 (かみや) も中 (なか) も息の根が止まりました。

 今で言うところの地方税 (小作料のようなもの) を紙屋 (かみや) も中 (なか) も無理やり各戸から取り立て始めたからです。

 信頼しきってそれに追随していた隣近所からの信用を一気に失い彼らからの利益 (困った時の手伝い) が得られなくなりました。

 田舎の暮らしはどうしても重労働に頼らざるを得ません。 口ばっかり達者でろくろく労務に精を出さなかった本家筋がまず絶たれ廃れ始めました。 主要産業を持たない寒村では労働力こそが資産を支える根本なのです。

 主要産業を林業 (主に炭焼き) から酪農に切り替えようとしていた長嶋一派がまず頓挫し始めました。

 資金が尽き肝心の飼料が買えなくなったからです。

 こうなると乳牛を飼う軒数も頭数も減り、搾乳しても量が少ないため回収に回ってもらえません。

 当初はそれでも自分たちで里近くまで人力 (リヤカーや橇に載せ) によって運び出していました。

 ところがそれが生活費を圧迫し始めると延々2キロ近い道のりを運び出さなきゃならないものですから時間から言って割に合わず否が応にも止めざるをえなくなったんです。

 結局酪農に舵を切った4軒に残されたのは多額の借金だけでした。 

 その借金を帳消しにすべく土地を売ろうとしましたが僻地過ぎて買い手がつかなかったんです。 真っ先に息の根が止まったのは元凶である隠居 (えんきょ) です。

 人は左前になると何かとこれまでに問題にもしなかった事項について追及が及びます。 長嶋時雄さんをして近隣の村々から例の牛泥棒につき詐欺・窃盗罪に問われたんです。 この罪は間もなく確定し彼は長期間に渡って地区から姿を消しました。

 その折にとんでもないことが起こったんです。 この4軒の家で飼っていた牛はことごとく借金のカタ (時さんが勝手に連帯保証人に仕立てていたため) に持ち去られました。

 衰退と産業のかかわりとはつまり山子以外の収入源は田んぼしかないのに田起こしをしようにも牛がいなくなったんです。 山村にあって田んぼが耕せないということほど悲惨なことはありません。 田を手放せと言われたのと同等なんです。

 これによってまず前田 (まえだ) が食を絶たれ村を離れました。 

 入谷村に入ってくる人は過去に多少ともいましたが破綻して出ていくのは初めてだったんです。

 しかもそれも土地が質草に入ってるものですから誰かほかの人がそこに入って耕すという訳にはいかないんです。 これが最初の耕作放棄地になりました。

 出て行かないまでも隠居 (えんきょ) と中 (なか) は田を耕す労働力を持ちませんでしたので次第次第に耕作放棄地になりました。 そうあってはならじと紙屋 (かみや) は目の色を変え畑作を始めました。 色事どころじゃなくなったんですが、雅子さんはそんなことまで関知しません。

 目立った動きではないにしろ雅子さん、躰が元通りになりご主人の寵愛を一身に受けることが出来ると思ったんでしょうが、彼はたまたま膿が溜まり放出したかっただけのことで芯の部分では妻を軽蔑していました。 それこそ放出して軽くなると見向きもしなくなっていったんです。

 捨てられる形になり、しかも紙屋 (かみや) が極端な左前になったことで家計を支えてきたカツ子さんはこれまで以上に引き締めを行いました。

 雅子さん、あっという間に無駄飯喰らいの役立たずに早変わりしたんです。

 邪魔者扱いに戻ってしまった雅子さんに家族同様の食事が与えられるわけもありません。

 カツ子さんが雅子さんを絞り上げる分、寛治さんがまた運んでくるようになりました。 ただしこれは条件付きになったんです。

 表面上は何事も無い風に装い、裏ではキッチリ寛治さん、雅子さんをぐうの音も出ないほど堕としました。

 百姓家とは雅子さんのような稼ぎの無いものを真っ先に切り捨てるのを旨としますが、雅子さんは未だに自分が悪いとは感じていなかったんです。

 それにも増して紙屋 (かみや) の定男さんは自分に、紙屋 (かみや) 家に無いものを原釜 (はらがま) から引き出すのを諦めていなかったんです。 それであっても穏便そうな顔だけはしました。

 紙屋 (かみや) も、ましてや直己さんも建前上妻を貸し出しているなどと人には言えません。 ですが事実上雅子さんは寛治さんの言いなりになり外に連れ出され野で締め込みをこれ見よがしにやらされてたんです。

 在りし日の寛治さんと立場が逆転させられてしまった直己さんは、さりとて夜ともなれば女が欲しくとても耐え切れず自分で擦ります。 すると益々雅子さんへの憐憫の情が募るんです。

 恐らく今頃は寛治さんの手によって開かされ悩まされ堕とされてると思うと、もうそれだけで気が狂いそうになりました。

 それを打ち消すべく、また思い付きで変なことを始めるものですからいよいよ紙屋 (かみや) の家計は尻すぼみになっていったんです。

 そうこうするうちに家計を支えてきたカツ子さんが倒れました。 無茶な粗食が祟り、あっという間に虹の橋を渡ったんです。

 こうなると定男さんの生活の面倒をみる者がいなくなります。 それを直己さんは母の、定男さんの連れ合いの片変わり (つまり主夫を) しながら農業にいそしみました。

 なにしろ定男さん、人の苦しみを理解するような人物ではなかったので相変わらず我儘放題の生活を送ってたんです。 これも直己さんの肩にズシンと重くのしかかりました。

 こうなると寛治さんは雅子さんの手を引いてわざわざ原釜 (はらがま) 家の墓の脇まで歩き、そこで締め込みに入るよいうな無駄な動きはしなくなりました。

 雅子さんにしても締め込みに入ると紙屋 (かみや) の苦しみだの実家が陥れられただのをすっかり忘れたようになってしまうためこの頃では近場で締め込んでもさして支障はなかったんです。

 いやむしろ近場でやってやると直己さんが苦しみ雅子さん、背徳行為であるがゆえかえって燃えてくれたんです。

 紙屋 (かみや) は今でこそ滅多に使わなくなったものの風流を兼ね近くに水車小屋を持っていました。

 カツ子さんは生前、この水車を使ってその日食べるお米を白米にしていました。 埼松頼子さんもよくこの水車小屋を利用していました。

 直己さんは何でもかんでも今風が好きで精米を機械化してしまい水車小屋は埼松家だけが使うようになっていったんです。

 しかし元々水路は裏庭の池 (観賞用の鯉を飼うための池) に水を引くだけのためにわざわざ入谷川にコンクリートで専用の堰を作り引いていて、その余り水を利用し水車を回しており定男さんが作ったものなので今でも権利だけは紙屋 (かみや) にありました。

 寛治さん、旦那の直己さんが寄り付かないことを良い事に雅子さんを誘ってこの水車小屋も締め込みの場所として利用し始めたんです。

 紙屋 (かみや) に近く、寛治さんの都合さえ良ければ雅子さんは極楽とんぼで股を開いて待ってるような人ですから何時でも締め込み出来るからです。

 しかもこの水車小屋、水車にかける穀物の中から余分なものを取り除く作業が何時でもできるよう莚が敷いてあったんです。

 雅子さん、締め込みに入る前と終わってからと オトコを惹き付けるため好んで水を手に取ってアソコを洗おうとしてましたので水場の近くは彼女にとっても都合が良かったんです。

 水車小屋は何処から見ても立派な小屋に見えその実板壁は隙間だらけで情交中外の様子がよくわかるんです。

 寛治さんはともかく雅子さんは何故だか覗かれながら情を交わすことが好きなタチ。 目の前の田んぼで直己さんが働いているときなどハメられている様子を魅せ付けたいのか、それとも苦悶する様子を観るのが好きなのか好んで後ろから責めて欲しと寛治さんに強請りました。

 寛治さんも遠慮が無くなった分、これまで我慢してきたそれを取り戻すべく回数も時間も増えました。

 女とは不思議なもので、たとえそれが背徳行為であったとしても暇なしに求められると大切に扱われてるような気になってかえってのめり込みます。

 しかも寛治さん、この頃では始める前からどのように扱って雅子さんを堕とそうとするか猥談として語って聞かせてました。

 つまり相談の上より刺激が強い方法で締め込みに入るんです。

 射精にしても寛治さんは直己さんと違いちゃんと放出する瞬間を目の前で晒しましたので雅子さん、安心して受け止めることが出来たんです。

 それはそのまま夫婦和合を減らすことに繋がりました。

 直己さんもいつの頃からか寛治さんの存在に気付いていましたから、その苦悩は計り知れないものがあったと想像できます。

 ふたりの行為は日増しに激しさを増しました。

 寛治さんが持ち込んでくれる雅子さんへの施しは栄養豊富なそれから女性の精力増強効果のあるものに代わっていました。

 家にいる時でさえ発情を隠せなくなりつつある妻はある瞬間どこかに消え、帰ってきたときは陶酔状態にある。 如何に鈍い直己さんでも間男の存在を意識しないではいられませんでした。

 事実、寛治さんと雅子さんの締め込みは情熱の限りを尽くして行われました。

 どんな音を出したとしても水車がそれを打ち消してくれるから尚更です。

 このようにして雅子さん、知らず知らずのうちに紙屋 (かみや) から追い出される条件が整いつつあったんですが・・・

 寛治さんときたら人妻に対しつい先ほどまで情交が行われたであろう痕跡を躰に残し送り帰してくるんです。

 直己さん、母のカツ子さん亡き今は雅子さんに実母に代わって意見するものなどなく、かと言って自分の方からあの時夢中にさせてくれた女を追い出すなんてことは自分の力で女房を奪い返したような気持ちになれたものだから男の自尊心が邪魔して出来そうになかったんです。

 機会を見つけ自分の方に再び引き寄せるべくチャンスを窺うんですが、如何せん毎度毎度痕跡を残して帰ってこられるものだから愛おしさ余って憎さが倍増するのが自分でも分かるほどになりました。

 追い出すというより直己さん、自分の方から出て行かなきゃ耐えられないほど心変わりした嫁を、それでも欲しくてたまらなくその日が来るのを待ちわびていて、なのに雅子さんときたらシラッとした顔で夜になると直己さんが寝入る夫婦部屋に入ってくるんです。

 生まれついて嫁ぎ先に子を生すため嫁に行くのが運命と位置付けられている女はそれで良いでしょうが、男としてはそれは地獄絵図でした。


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