掘割の畔に棲む女 ~嫉み妬み~
同じことが家族の中でも起こりえます。 上の子ばかり可愛がると下の子が拗ねるという風にです。 そしてまた子供を溺愛してしまうと奥さんに拗ねられるというのもあります。
仮に離れの小屋に棲む母娘の名字を有本としましょう。 その有本家に他人である宮内司が入るということ、しかも少なからず母娘の世話を焼くとしましょう。 こうなるとこれまで愛に飢えていたふたりですので司の愛情が今どちらに注がれているのか気になって仕方なくなるんでしょう。 ペットほどではないにしろ睨み合いが始まるんです。
悪いことにその愛情がただ単に仕事だから仕方なしに行っているのではなく、心底将来を気にかけて親身になって行っているとすれば受ける側だって次第次第に自ずと愛されたいという気持ちも生まれます。 美月ちゃんにとってみれば喫茶で必死になって司が母にプレゼントを手渡そうとしたぐらいですので母を好いてくれていると分かってはいますがふたり揃って部屋にいるときに母に愛情を向けたりすると拗ねるんです。
可愛い仕草には違いないんですが、こういったことをやられるとせっかく購入してきたものが台無しになります。 そこで司は千里さんだけわかるある種の方法で機嫌を取らねばならなくなるんです。 自分の持ってる大切なものをひとつを、大人だけに分かる何かを分け与えるという方法です。
よくよくふたりの様子を観察すると母娘であってもやってることは真逆のように思えました。 例えば美月ちゃんが学校に着ていく服でも千里さんが着せようとする服と美月ちゃんが着たがってる服は全く違うんです。
千里さんは彼女が培ってきた生活の中で身に着けた感性で持って服を薦めようとしますが、美月ちゃんが好む服とは仲間内で特に人気の高い服を着ようとするんです。
司はこの双方の言い分に合わせるべく二重人格者になる必要があり、それがまた一苦労でした。 母娘の争いが始まるような気配がするとそれとなく割り込んで、まるでとんちんかんな言動を行いふたりに睨まれるよう仕向けるんです。
しかしそれが終わると今度は真逆のことを行う必要性に迫られます。 美月ちゃんに対しては何かにつけてギュッと抱きしめてあげれば事が済みます。 しかし同じことを千里さんに向かって出来るかというと、そこはハードルが高すぎるんです。 高すぎるんですが、美月ちゃんが学校に行ってる間にその穴を埋めておかねばふたりが顔を合わせた時諍いが起こるんです。
こうして次第にそれぞれふたりに向かって尽くす時間帯が決まって行ったのです。 司が保持していた自由時間をふたりのために分け与えるのです。
旅館の一日の業務を終えくたくたに疲れ切って帰ってきた千里さんに向かって司は決まって30分程度マッサージを施すことにしました。 確かにこの時間、傍で見ている美月ちゃんにとって司を母親に奪われたようで面白くないに決まってますが、寝る時間になると今度は美月ちゃんの方が語らってもらえ擦ってもらって入眠できるのです。 その間我慢して待つということも必要だと思わせるようにしたんです。
こういったことが幾日も続いたある日司は気付きました。 司が何処かに向かおうとすると千里さんにしても美月ちゃんにしても必ずと言っていいほどちゃんと脇について歩いてくれるようになっていったんです。
相変わらず母娘の間に諍いは起こりますが、そういうことがあった直後、司が何気なくふたりのうちの誰かをそっと抱きしめたとしても千里さんなど以前のように抗うようなことはしなくなったんです。
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Shyrock様からの投稿を読んでつくづく思います。
官能小説は様々あれどほぼほぼ現実にそう文体であり感心させられます。
流れが良いんですよ。 目をつむっていても情景が浮かんでくるような気がするんです。
知佳のブログの中で「美貌録」だけアクセスが伸びず対策にブロ友をと探し回りましたが現実の世界とはまるでそぐわない文章の羅列、あれを見る限りこのような文を愛読する人たちって余程世の中に対し不平不満を抱いてると思えて仕方がありません。
しかもその手の小説の方が圧倒的に人気を博している当たり書く方としても考えさせられます。 一般小説を読む人と官能小説とでは計り知れないほど隔たりがあるんですね。
探す方面と探す手法を考え直します。