第十章 越前の浜辺 Shyrock作
ありさと俊介が駆け落ちをしてから1ヶ月の時が流れた。
越前海岸で料理旅館を営む伯父の一平宅に身を寄せた俊介とありさは、伯父の世話に甘んじることを極力避け、二人して一生懸命働いた。
俊介は海産物の卸問屋に勤め、ありさは伯父の旅館を女中奉公して汗を流した。
そんな折り、街の駐在がやって来て伯父の一平に尋ねた。
「本村さん、元気でやってるんかぁ。 おめぇの甥の本村俊介さんちゅ~のはぁ、こっちゃに来てぇましぇんか? もしも、来てぇもたら教えてんで 」
「やあ、駐在さん、ご苦労さんですってぇ。 う~ん、俊介けぇ? 久しく会ってねぇ~ね」
「いやあ、それならいいんほやけどぉね」
「俊介が何ぁんぁしでかしたんやってかぁ? 」
「いやいや、何でもぉ京都で、舞妓ぉを連れて逃げてるそうで。もほやけどぉおて、こっちゃをぉ頼って来てぇねぇ~かと」
「え!?俊介のやつ、ほんなもぉんことをぉ!? もしも来てぇもたら、あんなぁぁに連絡するんから」
「頼むでぇね」
二人の会話を柱の陰で立ち聞きしていたありさは、遠く離れた福井にまで捜査の手が及んでいることを知り愕然とした。
(あぁ、もう、あかんわ・・・、どこに行っても、あの執念深い丸岩はんは追っ掛けてきはるわ・・・もうあかんわ・・・)
その時、俊介から詳しい事情を聞いていた一平は優しい口調でありさに語り掛けた。
「ありささん、心配せんでいいよ。うらぁぁちゅ~のはぁ、おめぇや俊介をぉ絶対に匿うからぁ。間違ってもはやまってもたら、あかんよ」
「あ、はい・・・。心配をお掛けしてすまんことどすぅ~、ほんまにおおきにぃ~」
◇
ありさが血相を変えて尋ねてきたため、俊介は職場の上司に暫しの休憩を申し出で、ありさを連れて越前海岸に向かった。
「そうなんだ・・・、警察が尋ねて来たとは・・・。もうここにもいられないね」
「俊介はん・・・」
「ん?なに?」
「俊介はん、どこに行ったかて、あの蛇みたいにしつこい丸岩は追っ掛けて来はるわ・・・」
「あの男は警察まで巻き込んで、僕たちを捕まえようとしている。ずる賢い男だ」
「もしも捕まったら、俊介はん、半殺しの目に遭わされはる・・・うち、そんなん絶対いやや・・・」
「いや、僕のことよりも君のことが心配だ。どんな仕打ちをされるやら・・・」
「俊介はん・・・」
「ん?」
ありさは悲しそうな表情で、白い錠剤の入った睡眠薬らしき瓶を俊介に見せた。
俊介は驚いた。
「いつのまにこんなものを・・・」
「どうしようものうなった時に飲も思て、用意してたんどす・・・」
ありさの瞼には今にも落ちそうな涙がいっぱい浮かんでいた。
「そうだったのか・・・、僕も君と引き離されるなら死んだ方がましだ」
「あぁ~ん!俊介は~ん~!うちかて、うちかて~、俊介はんと離れとうない~。俊介はんと離れ離れになるんやったら死んだ方がええ!俊介は~ん~!」
「ありさ・・・」
ありさはついに号泣し、俊介の胸に頬をうずめた。
堪えていた涙がまるで堰を切ったように流れ落ちた。
俊介はありさを抱きしめた。
強く強く抱きしめた。
俊介の目にも熱いものが光っていた。
「それじゃあ・・・飲もうか・・・?」
「よろしおすんか?」
「うん・・・」
「うちのために、うちのために・・・俊介はん、堪忍しておくれやすぅ~」
「いいんだ、いいんだ・・・僕はありさが好きだから・・・絶対に離したくないから・・・」
「嬉しおすぅ~、俊介はん、うち、ほんまに嬉しおすぇ~・・・」
俊介は薬瓶の蓋を開けようとした。
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テーマ : 官能小説(レイプ・凌辱系・SM)
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Shyrock様からの投稿を読んでつくづく思います。
官能小説は様々あれどほぼほぼ現実にそう文体であり感心させられます。
流れが良いんですよ。 目をつむっていても情景が浮かんでくるような気がするんです。
知佳のブログの中で「美貌録」だけアクセスが伸びず対策にブロ友をと探し回りましたが現実の世界とはまるでそぐわない文章の羅列、あれを見る限りこのような文を愛読する人たちって余程世の中に対し不平不満を抱いてると思えて仕方がありません。
しかもその手の小説の方が圧倒的に人気を博している当たり書く方としても考えさせられます。 一般小説を読む人と官能小説とでは計り知れないほど隔たりがあるんですね。
探す方面と探す手法を考え直します。