掘割の畔に棲む女 ~聞き入れてもらえなかった通報~

その結果つじつまが合わない部分が出てきたため千里さんは連日容疑者として取り調べを受けなければならなくなったのです。 上のものはひたすら自己保身に走り署員の初歩的ミスを決して認めようとしなかったのです。
酷い打撲に外傷を負っていたにも関わらずその部分だけ見なかったことにし、署まで来いと言ってきたのです。 農作業も出来ないし漢からのお金も入らない中での呼び出しに千里さん、また自転車を漕いで向かわなければなりませんでした。
しかし悪いことだけが重なったわけではありません。 助けに来てくれた婦警は実は店員の相談を受け役所で戸籍の閲覧願を出していて通報を受け取っていたのです。 暴力事件の調べが一段落したところで取り調べ室に入ってきた婦警からその話しについて詳しく聞かせてとお願いされたのです。
何かと気を使ってくれる店員からの通報と聞いて泥のように疲れ切っていましたが問われることにひとつひとつ丁寧に応えていきました。
幼ない子供が行方不明と聞いて署も黙って見過ごすわけにはいかなくなったのです。 千里さんはだから自分が生まれ育った環境からこの地に流れてこざるを得なかった状況。 そして藤乃湯旅館の女将に拾われた時の状況も包み隠さず話しました。
疲れ切っていて捜査報告書に何を書かれていったかなど意識の外にあったからです。
ですがこの報告書が効きました。 千里さんの以前の案件は既に解決済みで覆すことは出来ないんですがその代わりに署が責任をもって美月ちゃんの捜索に当たってあげるとの言葉が聞けたのです。
暴力事件は加害者が偽証罪を念頭に置いて再捜査することになったのです。
そこで浮かび上がったのが例の3人の女の子の出生でした。 この子もその子も千里さんと似たり寄ったりの生活環境の中育児放棄され捨てられ自暴自棄になって起こした事件だったのです。
デリ組織は今回の事件について告訴しないという約束の元、慰謝料を支払う旨約束してくれたのです。 千里さんも婦警から女の子らの出生を聞かされていましたので素直に示談に応じたのです。 その折にグループから提示された金額があの忌まわしい農場襲撃事件の被害金額と千里さんが貢いだお金の総計に近いものだったのです。
千里さんの面談に立ち会ったあの年下くんの提言があって初めて提示された金額のように思えたのです。
確かに負けを認め支払うというのは如何にも痛いところを突かれたように思えて警察から解散命令が出なかっただけでも安く上がったと思わざるを得なかったのです。
そうでなければ暴行罪で起訴され実刑は免れないだろうし当然解散命令とこの地区から追い出されることは間違いないからでした。
千里さんはその話しを身動きすらできなくなって寝っ転がってたボロ小屋の寝台の上で婦警によって聞かされたんです。 ちゃんとした振り込みの証拠が残るよう口座番号を婦警は聞きに来てくれてました。
警察官立ち合いの元きちっと振り込まれるか確認し報告に上がりますと伝えてくれたんです。
まだあります。
千秋さんが囚われてる宿に署長自ら出向き交渉の末彼女を受け出してくれたのです。 これには極秘のお金が使われたようですが官憲も彼女らのお世話に度々なっていて状況が明るみに出た以上ほおってはおけなくなったからでした。
食べ物も飲み物も底を突きかけた小屋に久方ぶりに千秋さんの明るい声がこだましたのです。
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