義母の冬子を山中で押さえ込む輝久
その道はいくつもの枝道に別れ地元民でも一旦迷い込んだら抜け出せないだろうと言われる程果てしなく続いていることを輝久は幼いころより聞かされていた。
だが、逃げ出すことに執念を燃やす冬子にとって追っ手に掴まったとなればもう二度と街の灯を見ることなどできない。 とにかく後先考えないで逃げることに必死だった。
田圃の畦道から別れ峠の方面に向かったまでは良かったが何処かで道を間違ったようで何時まで経っても峠に辿り着かない。 冬子は焦った。 焦るあまり思考が混乱し元来た道を辿るつもりがそのまた先で別の枝道に迷い込んでしまっていた。
こうなったのにも理由があった。 金衛門は己の欲得以外で働くことを嫌がった。 自宅から山越えの道はどんなに荒れようと道普請など一切行わず荒れるに任せていた。
一家の誰かが勝手に鍬など持ち出し道普請しようものなら殴る蹴るを散々やらかす。 そういった漢だった。
輝久も家出した彼の母 蔦世もだから歩くのに難儀ではあっても一切そのことを口にしなかった。
慣れとは恐ろしいもので何時しか暗夜でも迷うことなくこの道を越え勘助らが棲む部落との間を行ったり来たりすることが出来るようになっていったのだ。
なので当初、冬子が何故に金衛門家から見れば脇道に反れたかとんと見当がつかなかった。 この辺りに棲む樵ならば凡そ2里四方のこういった道を諳んじていたからだ。 必要に応じこれらの山々の中から次に炭窯を築くべき木々のある山を見つけ出すために歩き回っていたからだ。
金衛門が家人の誰かを家に置いておくのは何も閉じ込めが好きだからだけではない。 こういったよそ様の土地でもしらみつぶしにお宝を求め調べ歩く輩に自宅近くの山に立ち入らせないための見張り役でもあったのだ。
なのでこの度冬子が迷い込んだ山は持ち主の勘助が許さない限り村人は立ちらない… 筈で、このようにして人通りが途絶え年数を経ると様子が急変し人を寄せ付け無くなてしまうことも輝久はよく知っていた。 知らないのは街から連れてこられたお気楽この上ない冬子だけなのである。
金衛門が竈を使って飯を炊こうとしていた冬子の尻にの下に我が尻をねじ込み反り返りに座らせたのも縄張りでのマーキングを施す為でもあったのだ。
そいつらは親爺の金衛門がいない間に家の誰かが勝手に抜け出したりすれば気を失うほどの折檻を受けることさえも理解していて、しかし恋しい義母なればこそ折檻覚悟、心配で熊や猪、ヤマカガシらの巣窟となっているであろう藪に近い獣道を伝って後を追ったのである。
輝久はひたすら焦った。 陽が満天に昇り気温が上昇し風でも伴おうものなら落ち葉を踏み散らし先を急いだであろうその足跡が消え失せてしまうからだ。
山の天候は変わりやすい。 急変し雨でも降ろうものなら疲れ切った躰は一気に冷え体力を奪っていく。

山を良く知るものならまずカンスに手を伸ばす、が、イチゴには手を伸ばそうとしない。 なぜならそれは山肌の比較的谷底に違い湿った場所に自生するからだ。 ということはヤマカガシではなくマムシに狙われることだって十分にあり得る。 今はただ義母がど素人であって欲しいと願わずにはいられなかった。 ものを知らなければカンスにだって食い物とは思わないだろうから手を伸ばさないからだ。
輝久はどんな小さな分かれ道であろうと地面に顔を擦り付けて落ち葉の変化を調べた。
半日近くかかってようやく木々が生い茂る道端に寝っ転がってる冬子を見つけ駆け寄った。
幸いにも獣に襲われたり蛇に咬まれたりしてはいなかったが念のため輝久は寝っ転りもはや自分では動けそうにない冬子の衣服を徐々に脱がせ身体中をしらみつぶしに調べ始めた。
叫べど誰も応え様のない山中で相手は若いとはいえ女の躰をしらみつぶしに調べる。 犯そうとしているとしか思えなかったのだ。
冬子は金衛門に輝久が覗き見ている中で幾度も逝かされるほど挿し込まれ注がれたこともあってアレを拝まされた漢なら仕方なかろうと抵抗しなかった。
だがこの時の輝久は精神を集中しなければ気持ちが飛び冬子と同様ひっくり返ってしまうほど疲労困憊していた。 自他の裏山の熊笹を掻き分け冬子の先回りを試みた。 それだけでほぼ力尽きていたのだ。 残るは精神力との勝負だった。
輝久の調べは入念を極めた。 探している悪の主とは吸血鬼ならぬ猛毒 (致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」をはじめ、ライム病やQ熱など) を持つと言われるマダニである。 こいつが一旦食いつくと頭を皮膚深く埋め体液、殊に血を吸おうとする。
マダニが集るであろうところに顔を埋めるようにしまるで冬子にクンニでも施すが如くスタイルで探し始めた。 当初は首筋や耳の後ろ、腋に乳房の裏側であったものが徐々に下に下がりとうとう臍から下を探し始めてしまった。
途中もよおして草むらでしゃがんでいたりされたらクレバスにだって食い込みかねないからだ。
義母に当たる冬子はこのうちに来て初めて義理の息子の輝久に繁みの奥深くまで舐めあげるように調べられてしまったのだ。
もはや観念すすしかない。 義理の息子にまで凌辱されるんだと覚悟を決め、それでもといつぞや覗き見てしまったあの逞しい棹が気にかかり気を失ったフリしつむっていた目を見開いた。
ところが当の輝久は自分が着て来た元々ぼろ雑巾のような衣服を引き裂き何やら作っているではないか。 よ~く見るとそれは短い帯だった。
義母が目を開けたのに気が付くと輝久は背を向けしゃがんで後ろを振り返った。 背に乗れという合図のように見受けられた。 地獄に仏とはこのことか。 冬子は躊躇いもせず義理の息子の背に覆いかぶさった。
先ほどの帯は背に乗った冬子の腋の下に回され輝久はその端を口に咥え立ち上がった。 冬子の尻の下には輝久が手を卍に組んで支えてくれていた。
健常人でさえ這いずって上がらなければならないような獣道を自分とそう変わらない重さの荷物を背負って下って行く。
冬子は感謝の言葉を何度も口にした。 しかし輝久から何の返答も得られない。 もしや嫌われてるのかと諦めかけ、何気なしに彼の足元に視線を泳がせ涙が滲んでしまった。
父親の金衛門はそれでも炊き立ての飯にイカの塩辛を乗せ食っている。 しかし輝久にそのようなことが許されるわけもなく彼の肋は栄養不足から透けて見えたのである。
通り過ぎる山道の脇に生えているカンスに手を伸ばし歓声を上げ行楽気分に浸っていた冬子。 気を抜けば倒れるやもしれない輝久の体躯を目にしたことで己の非にようやっと気付いたのであろう、漢の肩に愛しみを込め、最初はおずおずと、終いには決して離れないようしがみついた。
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