官能小説『未亡人衣蕪 如意棒』 第1話 「読経のあと」 Shyrock作

Shyrock様 作

舎利寺入道(しゃりじ にゅうどう)は読経を唱え終ったあと仏壇に向かって合掌し一礼をした。
そのあと振り返って神妙な表情で早乙女イヴに会釈をした。
読経終了後、衣蕪は舎利寺に深々とお辞儀をし挨拶を述べ、お茶、茶菓子、そしておしぼりを差し出した。
「ご住職、本日はありがとうございました」
「本当に早乙女はんも大変でしたな。この前の忌明けは親戚の人たちがぎょうさん来たはったけど、その後、遺産分けのことでもめたはったんやて?ちょっと小耳に挟んだんやけど」
「ええ、そうなんです。亡くなった主人には兄が二人いまして、その妻たちがいろいろと口出しをしてきて……本当に疲れました。主人が亡くなった今、私には欲も徳もありません。ただただ平凡に暮らし、主人の御霊を弔っていければと思っています」
「それはええ心掛けや。若いけど偉いわ。奥さんは確かまだ二十九やったな?まだ若いのに未亡人になってしもうて、ほんまに気の毒としかいいようがあらへん」
「お心遣いをとても嬉しく思います。しかしこれも運命だと思っています。それにしてもまさか交通事故で亡くなってしまうとは……」
「ほんとや。人の命ちゅうもんわ、分かれへんもんや。あんなに元気やったのに三十二歳の若さで亡くなりはるとはなぁ……」
舎利寺から慰めの言葉をかけられた衣蕪は在りし日の夫の姿を思い出し、そっと目頭を押さえた。
衣蕪は大手商社早乙女物産株式会社社長の三男早乙女道雄と三年前に熱烈な恋愛のすえ結婚したが、二ヵ月前、道雄は交通事故で思いがけずこの世を去った。また道雄の父道春も昨年他界し、彼が所有していた土地建物等財産の相続がまだ確定していなかったことから、たちまち遺産を巡って兄嫁たちが血眼になって争い始めたのであった。やむを得ず弁護士を仲裁に立て現在調停の最中であったが、衣蕪としても心労が重なり精神的にかなりまいっていた。
住職の舎利寺入道(五十歳)は衣蕪のそんな様子を見かねて、訪問の度に仏法を説き、仏の御心を教えたのであった。彼の慈愛に満ちた説教で衣蕪は次第に笑顔を取り戻していった。
四十九日が終わった後も、舎利寺はかならず月命日に訪れ熱心に経を唱えた。
「早乙女はん、さっき唱えたお経の、『色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識 亦復如是』の意味は分かりまっか?」
「いいえ、存じません。どのような意味があるのでしょうか?」
「色は空に異ならず、空は色に異ならず、色は即ち是れ空、空は即ち是れ色なり。受も想も行も識も、亦復是の如し……そんな意味なんやけど分かりまっか?」
「いいえ、よく分かりません……」
「このお経は般若心経と言うてな、簡単に言うたら、世の中に存在するすべてのものに変化しないものはないのやから、ものごとにこだわったらあかん……という教えですわ。あなたを喜ばせているもの、悲しませているもの、苦しませているもの全てが実体のないもの、いつか変わってゆくものなんやから、それらに捉われんと、こだわらんと、生きなさい……ちゅうことを教えてくれてるわけですわ。ざっと言うとそんな意味やけど、だいたい分かってくれはったかな?」
「はい、難しいけど、何となく分かりました」
「そうかそうか、それはよかったわ。ところで、早乙女はん、おたくはまだ若い身空でご主人亡くさはってほんまに気の毒やなあ。毎晩、寂しおまっしゃろ?」
舎利寺が重みのある説教を説いた直後、突然俗世のしかも色っぽい話題を持ち出しため、衣蕪は面食らってしまった。
しかもその質問が衣蕪の私生活に及ぶことなので、何と返答すればいいのか、言葉に窮してしまった。
「ご住職、何をおっしゃいます。そのようなことは決してありません」
「そうか、それやったらええんやけどな。早乙女はんの若さやったら、あっちのほうもこれからどんどんようなる年頃やし、ほんまに気の毒なことやわ」
「そんなぁ……ご住職、変なこと言わないでください」
衣蕪は眉を顰め舎利寺をキッと睨んだ。
「その怒った顔がまたええがな」
「そんな……」
とても聖職者の言葉とはいえず、衣蕪は呆れてしまった。
次の瞬間、舎利寺はツツツと膝を摺りよせ衣蕪に接近した。
衣蕪は驚きのあまり後ずさりをしてしまった。
舎利寺はなおもイヴに接近し、かぼそい肩に手をかけた。
「ご住職、何をなさるのですか。や、やめてください!」
衣蕪は目を吊り上げて、肩に乗せた舎利寺の手を払いのけた。
しかし舎利寺に怯んだ様子は見られない。
怯むどころか逆に喪服の胸元に手を差し込んできた。
「きゃ~!やめてください!」
「まあ、そう嫌がらんでもええがなあ」
喪服は和装ということもありブラジャーを着けていなかったので、いとも簡単に乳房を舎利寺に触られてしまった。
舎利寺は逃げようとする衣蕪の細い腕をつかみ、ぐいぐいと乳房を揉みしだいた。
「いやぁ~、やめてください!」
舎利寺はするりと衣蕪の背後に回り込み、首筋に目を凝らした。
「ほほう……」
「……?」
その日衣蕪は髪を和装用にアップにしていたこともあって、白いうなじが露出していた。
うなじの後れ毛がふわふわと揺れている様は実に艶かしいものだ。
「色っぽいうなじしたはるなあ。それに若鮎のようなきれいな肌して……こんな魅力的やのにこの先も男はんに可愛がってもらわれへんちゅうのは不憫なことやなあ……」
「そ、そんなこと、余計なお世話です……放っておいてください」
衣蕪は憮然とした。
舎利寺は首筋に熱い息を吹きかけ、そっと衣蕪に囁いた。
「ほんまにうっとりするぐらいきれいなあ。絹のように木目細かい肌やで。たまらんわ」
突然、ぞっとするような不快な感触が衣蕪の首筋を襲った。
衣蕪はおぞましい感触に首をすくめ、「やめてください」とはっきりと拒絶の言葉を漏らした。
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連載お礼
お手数をおかけしますがよろしくお願いします。
話は変わりますが、当サイトの官能テキスト掲示板が新しくなったので、よかったら一度使ってみてくださいね。
PCの限界なんです
次のPCの発注はかけてるんですがまだ届かないし、届いても移行に相当手間がかかります。
連載でも相当ミスが出ていたようで… 暫らくは我慢の日々です。