飢え過ぎた雌猫
目を開けたなお美は見覚えのない天井の明かりにハッとし、一瞬慌てた。
手の届くところに漢がいて一層狼狽えた。
「ようやくお目覚めか? 気をやりすぎて疲れ果てたんじゃないのか?」
漢はとうに目覚めていたらしい。
漢がなお美のような女を連れ込むときのために借りているマンションだった。
ここに来てからのことが瞬時に脳裏をよぎった。
夢さえ見ることなく寝入っていたようだ。 漢の言うように何度も悦楽を極めクタクタになり、行為が終わった後シャワーも浴びず深い眠りの底に引き込まれていったようだった。
けれど、昨夜のことは夢であってほしいと願った。 かつて夫と同じ職場にいたこの漢と、夫が酔った勢いで家に連れてきたことがきっかけで外で出あうようになり誘われるまま呑むこともあった。 彼の同僚たちも一緒だったし漢の特別な視線に気づいても、それなりに距離を保ってきた。
それが、同級生で結婚前から付き合っていた西村が不慮の事故で亡くなったことで精神が不安定になり、自分から漢に電話をかけ誘い出して逢ってしまった。 それでも深い関係になるなど思いもしなかった。
そうこうしてるうちにうまく騙され漢が愛人を囲うために借りていたこのマンションに連れてこられた。 そこから先のことは自分でもうまく説明できないし自分ながら理解できていない。 何故漢の愛人である同性の女と破廉恥なことをしてしまったのか。 そして、何故漢と躰を合わせてしまったのか……。
こうして目覚めてみると悪い夢から覚めたようで、漢と同じベッドで休んでいたことに戸惑うだけじゃなく家に残してきた夫や息子を裏切ってしまったことが不安でならない。
もしかして夫はこのことに気づき夜通し寝ないで待ってくれていたのではなかろうか。 漢の素性に気づき妻が帰宅しないことに更なる疑惑を持ち会社にもいかずじっと待ってるのではなかろうか。 スマホが鳴らないのは故意に油断させておいて尻尾をつかむつもりでいるのではなかろうか……。
悪いほうにばかり考えてしまう。
「…帰らなくちゃ……」
脳裏に思い浮かぶのは治夫の夢精で汚した下着。 なお美は泣きそうな顔をした。
「あいつは仕事が忙しく時に帰ってこない日もあるって言ってたじゃないか。 そう焦って帰ることもなかろう。 同窓生と夜を徹して飲み歩き、飲み疲れて泊めてもらったことにすればいいんだ」
なお美が黙って天井を睨みつけていると
「何ならあの女をお前の旦那に紹介しよう。 旦那にも旦那なりの外で遊ぶ理由を考えてやればいいんだ。 そうなると夫婦揃ってあの女と仲良くなれる。 お前だってあいつの手で玩具をアソコに入れられ、いい声で泣いてたんだからな」
躰を半分起こし漢がにやりと笑った。
「もうやめて頂戴!!」
なお美は喘ぎつつ叫んだ。
治夫の手前、母として妻として、たまらなく恥ずかしかった。
漢の言う通りここに連れ込まれてからというもの、漢の愛人が取り出したピンク色のシリコン製バイブで執拗に愛されていた。 それ以前に治夫の夢精でその気になり、収まりがつかなくなって漢に電話をかけ呼び出したが焦らされ、半端に躰が火照っていた。 だから漢の愛人に抱き寄せられたときも拒みはしたものの何時しか優しく妖しげな女の愛撫を受け入れていた。
ソファーに漢と並んで腰掛け手を膝の上に置かれ、しかしそこから先一向に進んでくれないことにやきもきしているときにその愛人がないとテーブルの抽斗からバイブを取り出し目の前に翳してきたときには唖然としたが、それもやがて受け入れていた。
肉の喜びに恍惚とし始めていた時に漢がシャワーを浴び終えベッドに近寄ってきた。
思い出すだけで汗ばんでしまう。 消えてしまいたいほど恥ずかしい。
「あんなに燃えていたのに、一夜明けたらすっかり醒めてしまったのか?」
漢は今一度なお美を凌辱しようと思ったのか唇を緩めた。
「…帰らなくちゃ……」
またなお美はこの言葉を繰り返した。
いけないことをしてしまった……。
夫に対しても治夫に対しても、ふたりのことを考えると恐ろしさと不安でいっぱいになる。
昨日のウチはホントのウチじゃない…。 治夫、あれはお母さんじゃなかったわ…。
なお美は寝入る前の隠微な時間を思い出し、自分の行動 それら全てを否定した。
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