下手な言い訳をし、自分を取り繕おうとするなお美
なお美は肉の火照りを冷ますため、こっそり指で慰めようとした。 それを眠ったはずの漢に感づかれ結果的に抱かれることになってしまった。
何もかもが夢のようだった。
もしもこの時なお美が正気であったなら漢の愛人が漢と行為を終え休んでいる、その同じベッドで示威行為にふけることなどできるはずがない。
初めて他人の行為を覗き見ておかしくなっていたのだ。
「亭主のことが心配か? しかしそれなら元同窓の漢と3年も不倫を続けたりしなかった筈だ。 亭主との夜の性活に不満があるから外で漢に抱かれていた。 そして昨夜はまた新しい刺激に感動するようになってしまった。 違うかな?」
漢が言うことは至極もっともだ。 けれど旦那の元同僚の漢と深い関係になるとは考えていなかった。
話しを訊いてほしかっただけ……。
ここに連れてこられたから、結果的にこうなっただけ……。
なお美はまた心の中で言い訳をした。
だが、漢とその愛人との淫猥な時間はかつて体験したことも、もちろん目にしたことのないほど強烈で蠱惑的だった。
「亭主に知られ修羅場になると困るんだろう? 平穏無事に浮気できるなら、それに越したことはないからな」
漢はこう言い放った。 まったくその通りで返す言葉もない。
夫は何事につけ決めつけたような言い方をする。 それでもそんな夫との生活は穏やかに過ぎている。 ただひとつ難があるとすれば夫婦の営みに不満があり、その欲求を満たしてくれる漢が欲しかった。 それが亡くなった西村だった。 長年連れ添った夫との結婚生活のうち西村が亡くなるまでの数年間、無いとは言え西村が多少なりとも埋めてくれていた。
人もうらやむ生活だったろうに、西村が亡くなると夫とだけの生活は侘びしくて、ため息ばかり出た。
平穏に過ぎている生活にまた石を投げこもうとしている。 いや、すでに投げ込んでしまっていた。 けれど、これ以上波紋が広がるのは正直怖い。
「俺とあいつであんたと旦那の生活が破綻しないよう努力してみよう。 あいつがいる以上任せておけば大丈夫だ。 それとも何もなかったことにするか? これからも何もなしにするか? それならそれで俺たちの家族じゃない以上仕方ないが」
漢はあっさりと言ってのけた。 漢との関係がこれっきりになると思うと家庭、殊に旦那と別れる云々の不安よりあの女や漢と重ねためくるめく悦楽の時間が無くなるのが惜しくなる。
西村を失って二度と肉の喜びを得られないかもしれないと諦めていたのに、その西村と比較しようもないほど妖しい時間を過ごしてしまった。
治夫が未だ未熟で大人の快楽と程遠い現在もこれからしばらくに間も、これ以上欲情を満たしてくれる相手は現れないかもしれない。
今後、躰を開くことができる相手に巡り合う確率はどれほどだろう。 誰かが声をかけてくれたとして、そしてその漢と躰を重ねたとしても満足できるとは限らない。
なお美は目覚めてから幾度となく思いを巡らせていた。 漢の舌は独立した生き物のように動き、とろけるような悦楽を与えてくれた。 繊細に動く指先も的確にスポットをとらえなお美を燃え上がらせた。 漢の愛人の舌や口による愛撫も、そそけだつほど気持ちよかった。
たった一夜の出来事だったが、その短い間に様々な思いがなお美の脳裏をよぎった。
「おしまいにする ---」
なお美の揺れ動く心を読み取ったかのように漢は結論付けるようなきっぱりとした口調で言い切る。
そう言われると不倫に対する複雑な思いより失うものの大きさに戸惑う。 浴室で交わした息子 治夫との淫靡な時間もそうだった。 治夫が口にした父がという言葉に狂おしいほど欲しいにもかかわらずのちに起こるであろうことに脅えその時はお終いにしてしまった。
その場を離れ、襲い来る欲望に幾度となくふたりの仲を元に戻そうと息子の部屋を訪れ行為を息子に悟られぬよう始めてはみたものの、結局先に進めなくなり漢に縋り付いてしまっていた。
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