それぞれの性癖、それぞれのセックス

聡子は電話も向こうの誰かと懸命にやり取りしてた。 スマホを持つ彼女の顔は引きつり、唇が震えてる。
「そう……わかったわ。 でも今は無理、取り込んでるから。 ここの要件が片付けば、できる限り早く行くけど……ええ、そう……じゃ……」
そこまで言うと、聡子は電話を切った。 その場所にしゃがみ込み、頭を抱え込むようにしながらすすり泣いてる。
「どうしたんだ。 泣きたくなるような事件でも起こったのか? 急いだら間に合うんじゃないのか?」
店主は真面目半分、からかい半分に訊いた。 妄想していたことがもし正しかったとすれば、彼女が泣いた原因こそむしろ歓迎すべきことのように思えたからだ。
「今頃になって駆け付けたって、もう手遅れよ。 どうあがいたって無駄よ」
店主の言い方に腹を立てたのか、聡子は立ち上がると店主を睨みつけながら言った。 その態度とは裏腹に目から涙が流れてる。
「どういうことだ。 この前深夜の路上で拝ませてもらった、あの男がどうかしたのか?」
「そのほうがまだいいわ。 なんてったって相手はたかだか他人だもの……」
吐き捨てるように言い、聡子はまたしゃがみ込み、両手で頭を抱え込み泣き始めた。
(……いったいどうしたというんだ……うん?……待てよ……確か今他人がどうとか……)
そこまで考え、思わず叫びそうになった。
どこの誰が親切に告げ口してきたかは知らないけれど、紛れもなくそれは息子の隼人がまた何かをやらかしたように聞こえたのだ。
すすり泣きは嗚咽に変わっていた。 ブラウスの前がはだけ、乳房が丸見えになっているが、本人にとってそのようなこと、もうどうでも良さそうなのだ。
「何処のどいつか知らないが、電話で現場の状況を知らせてきたってことはひょっとして……息子はまだそいつと……」
店主も怒りに似たものを感じた。 まさか……店をほっぽらかして飛び出したはいいものの、男が忘れられず、今度はこちらから誘い出し行きずりの誰かに覗き見られるようなところで隼人相手に乳繰り合う佳純の姿が思い浮かんだからだ。
「だから言ったでしょ。 もう私たちの関係も終わりだって……あれ以来ふたりは、お互いつかず離れず誘い出せるチャンスを伺っていたのよ、きっと……」
聡子はやりきれないといった風に床を叩いている。 聡子は本気で自分の息子を愛してたんだろうか……そんなはずはない。 店主の中でふいに聡子への欲望がムラムラと蘇ってきた。
「泣くな! あんなガキよりよっぽどいい思いをさせてやる」
こう叫ぶなり店主は再び聡子を床に押し倒した。 そうしておいて、泣き叫ぶ聡子の唇を己の唇で塞ぎ、半ば強引に舌を滑り込ませた。
隼人と佳純が再び出会って躰を重ねているという知らせは、聡子にとって相当ショックだったに違いないが、店主にとっても衝撃的な出来事だった。 確かにひた隠しに隠しながらも妻の佳純は男漁りをやらかしていたというのも衝撃だったし、息子がそんな佳純にコロリと騙され連れ出され、躰を重ねているというのも衝撃だったろうが、店主はこの期に及んでそのような態度をとる聡子こそ頭に来ていた。
「あんな非常識な息子にいつまでも肩入れするなんて……知性も教養もあるお前が……冗談じゃねえ」
店主は己の女房が亭主をほったらかして男漁りに街に繰り出したと知って、しかもその相手が騙して寝取ったあの男と知って怒りが収まらず、泣きじゃくってる聡子を夫婦のベッドに運び押し倒すと、強引に唇を奪い花唇に指を滑り込ませた。
濡れていた……。 店の奥の、夫婦の部屋に騙して連れていかれ、指を挿し込まれた時にはグショグショに濡れたが、その後乾いた感じになった。 そこがまた新たな蜜を溢れさせ始めたらしい。
店主はまた、ヒダの間に指を挿し込み、再びGスポットを探した。 しかし、あのザラッとしたヒダの盛り上がりは見つからない。 店主は一旦唇を離すと、
「忘れろよ。 あんな出来の悪い息子……元々胤が悪かったんだ。 あんたほどの女がさめざめと涙を流すほどの男じゃない」
低いが心のこもった声で囁いた。 もちろん、こんな言葉が今の聡子にとってなんの慰めになるとも思っちゃいない。 単なる女房を寝取られた嫉妬からくる言葉だ。
「言わないで……もう、あの子……私のために新たな女を探してくれたんだわ。 母と子の間で情を交わしてたなんて、世間に知れたら、もうそれだけでアウトだもんね」
今頃になって、どういったつもりで彼女はこんな言葉を口にしたのか店主には理解できなかった。 しかし、何かの形で、自分自身を納得させようとしているのは店主にも伝わってきた。
「これ以上あの子たちのことは口にしないでね」
念を押すように聡子は言った。
「ああ……新たな男と関係を持ちたくて家を抜け出した嫁のことをグチグチ言うのだけは止めにする。 しかし、寝取ってくれた男の母、つまり母子相姦をやらかしてた女、つまりあんたは欲しい。 たまらなく欲しい……」
こう言いおいて店主は、彼女のヒダに指を入れたまま、別の指でクリトリスを撫で上げた。
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