短編 「もえ カッペリーニ」 第3話 Shyrock作
ちょうどいい。
パスタ鍋は中に穴の開いた内鍋がついているから、そのまま引き上げればいい。
湯を切り、直に皿に入れ。
上からソースをかける。
ぴりりと辛みの効いた「生トマトのトマトスパゲティ」の完成だ。
熱くて辛いパスタを、汗をたっぷりかきながら食べる。
何も考えない。
ただ、無心に食べる。
最後に冷たく冷やしたビッテルを一杯飲んで今日の昼食は終りだ。
あの時も、今日と同じでたっぷり料理を食べたものだ。
そう、彼が尋ねてきた時。
あれは、引越をしたすぐの週末に彼と友達の4人が尋ねてきた時だった。
鍋も片手鍋しかなく、皿もそう多くなかったなかで、彼ともう一人の友達は手早くたっぷりと数種類の料理を作ってくれた。
その時だった。
「ごめん……」
突然、あやまる彼に理由を尋ねた私に見せたのは、なべ底が黒くこげついた鍋だった。
「ごめんね」
「いいよ」
「新しい鍋なのに」
しょげる彼にもう一度言った。
「きっと、使っているうちに消えてしまうから、だいじょうぶ」
その後は、ビールで乾杯をし、それらの料理を食べながらわいわいと騒いだ。
きっと、その後、彼は焦げた鍋のことは記憶の奥にしまったに違いない。
あれから、彼はその頃付き合い始めた彼女との交際が本格的に始まり、淡く熟し始めていた私の思いはこの鍋の底にそのまま焦げついたままとなった。
さっと、水を流してから皿とフォークを洗う。
残ったソースをパスタに入れて冷凍庫へうつす。
そして、鍋を洗う。
パスタ鍋を洗い、次に片手鍋だ。
鍋底をごしごしとあらうが、焦げはしっかりとこびりついたままだ。
もう、あれから何回トマトソースを作っては洗っただろう。
でも、焦げはそのままそこにあった。
最後に水を流して、良く水をきる。
「うん?」
いつもより、焦げが薄くなったように思えた。
どうやら、すこしづつは落ちているみたいだ。
日々薄らいで行く彼への淡い思いと同じように、この思い出も消えてしまう日が来るのかもしれない。
そう、いつの日か……
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アップデート 2024/02/21 12:45
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