知佳の美貌禄「女衒の家に生まれ」

年端もいかぬ女の子が一心不乱に市街地を駆け抜けていく。
小さなその手に文を持たされ脇目も振らず遥か彼方の海の方角を目指し駆け去った。
時は明治。
生家はこの物語の主人公 久美が母から伝え聞いた、その母の記憶にある限り
女衒 (一般的には貧農が娘を質草として女郎を商う置屋、又は揚屋”あげや”ともいう に売る。このこの仲立ちをする男衆のことを言う) を生業 (なりわい) としていた。 という
母の父親である男 (以下 女衒という) は政府非公認の岡場所のあるこの地で髪結いという表向きもっともらしい看板を掲げてはいたが、裏に回ればそも置屋に生娘を世話する売春のための人買いであり皮剝ぎなどを主な生業にし忌み嫌われていた穢多(えた)だった。
穢多(えた)は非人の次に身分が低い。
人も避けて通る河原乞食が何故と思うかもしれないが、需要が無くなった皮剝ぎ様の商売をやめ主人公久美の母が物心ついた時には髪結いの表看板を掲げており食うに困る乞食・・・風には思えなかった。 という
地方で知らぬものとてない潤沢な資金 (女衒と金貸し) に支えられ知名度も高い家柄のように思えたという。 が、久美にこう語る母は今に至っても何故家柄が穢多 (えた) なのかわからないという。
どう卑屈に見ても大陸系でも皮剝ぎでもなく食うに困る河原乞食でもなかったからである。
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知佳の美貌録 「今日は歴史のおさらいを 赤線の地位と女衒のやり口」

赤線と呼ばれる地域は一般市民が暮らす街とは少し隔たった場所にあった。
赤線(あかせん)とは、GHQによる公娼廃止指令(1946年)から、売春防止法の施行(1958年)までの間に半ば公認で売春が行われていた日本の地域である。 とウィキペディアに記されている。
青線(あおせん)とは、1946年1月のGHQによる公娼廃止指令から、1957年4月の売春防止法の一部 特殊飲食店として売春行為を許容された地区と区別し営業許可なしに、一般の飲食店の営業許可のままで非合法に売春行為をさせていた区域を地図に青い線で囲み、俗に 「青線」 あるいは 「青線地帯」、「青線区域」 と呼んだとされている。 とウィキペディアに記されている。
この物語に登場する女衒が支配する地区は赤か青か定かではないが武士が支配していた時代遊郭と指定されていなかったものとみられることからここでは赤線 (あかせん) と記すものの実情は青線 (あおせん) ではなかったかと。
つまるところ飲食店どころか一般家庭内でも座布団を敷けば合意したものとみなし春をひさぐようになっていった地区ではないかと思われます。 日本人はとかく表面上きれいに見せたがります。
それが今日、過去を洗う (調査する) ことへの足枷になっているのですが・・・

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知佳の美貌録「生い立ちの悲哀」

女衒の孫娘である好子は旦那衆と娼婦との交流(売春斡旋)を受け持たされたのです。
女衒の息子の嫁である彼女の母がこの少女の妹を身籠って間もなく、跡取り息子は当時の悪しき慣例である暗黙の了解のもと外に女をこしらえたばかりかその女を囲うための家 (妾宅) も別に借り、自らも移り住んで妻や子の元に帰ろうとしなくなった。
つまり今でいう同棲 (同衾) してしまった。
実家に近いとはいえ妾として囲うのではなく駆け落ちしてしまった。
父親が無言のうちに教え込んだ女に食わせてもらう術(事実ろくな働きもせず食わせてもらうヒモに成り下がった)を実行したわけだが、父親と違ったのはその女が自分の居ぬ間に別の男がちょっかいを出すこと (不貞) を極端に警戒した。
女に溺れ寝取られを警戒するあまり家督も女房も我が子すら捨てたわけだ。 ご時勢が理解できぬまま
ご時世と言えば「届かなかった手紙」にでてくる移民の亭主のように、戦争末期ともなれば物資が、殊に都市部では食料が尽き、栄養失調は国民全体の問題となっていた。 そんなご時世でも男たちは戦争に勝った勝ったと見栄を張り酒と女にうつつを抜かしたが…

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知佳の美貌録「髪結い組の食事風景」

娼婦を売り買いするのと違い髪結いはそれなりの人出がいる。
髪結い職人のすべてをどこやらから引き抜いてくるわけにもいかず、女衒は娼婦を集めた時のように彼らを貧農の中から駆り集め、自宅に住まわせ修練に当たらせた。
髪結いというのは多くが師匠と弟子の関係で成り立つような仕組みを作っていた。
仕切っているのは表向きは跡取り息子 (長男は飲み屋の女と同衾してしまったので次男が跡を継いだ) だが実のところ差配はもちろん女衒、武士の時代庄屋と小作がそうであったように上下関係は殊に厳しかった。
任侠道でいうところのスジを立てるのがそれにあたる。
女衒が思い立つような仕事だがこれには深い訳がある。
噂の通り彼らに髪を結わせる傍らで廃りゆく淫売の一旦も担わせたのだ。
旦那と枕芸者の間を摂り持つことは無論だが、奥方を髪結い自身が密かに慰めることはもちろんのこと、どこやらの旦那衆を奥方に紹介するようなこともやった。
だから一般職でありながらその関係は親分子分で、その結束が縄張りとなって他を寄せ付けない、いわゆるショバを作っているからこそ稼ぎ(髪結いを兼ねた淫売)もまま安泰であった。
そのため、なにをするにつけ一家総出で事に当たったのだ。
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知佳の美貌録「祖々母が望んだ領主風な生活」

そうなるために必要なのはタダ働きである。 家畜同様必要最低限の、いわば余りものを与えられそれでいて一家を支えなければならないのだ。
親に見捨てられた女の子は未だ明けやらぬ時刻(暁闇)から独楽鼠のごとく追い回され、皆が寝静まる深夜帯に至るまで掃除や洗濯、台所方まで端女同様に立ち働かされた。
乞食同然の居候であるこの子は当然のごとくそれら全てを情け容赦なく誰彼と無しに仕込まれた。 端女にもである。
何から何までご隠居様のご機嫌伺いのためにやらされた。
そして、主にお姫様の食い残しを飢えぬ程度にあてがわれたのだ。 飢えぬ程度というのはお下がりは端女の許可なくして口にできないからだ。 口にしたら最後、殊に跡取りにこっぴどい目にあわされるからだ。
だが幸いなことにそれら全てを作らされ、食して育ったものだから女衒の孫も幼くして自然と風雅な京風味、食膳を覚えることになるのである。
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知佳の美貌録「遥か向こうに枕芸者衆の棲む街が見える」

その一般道とは田んぼの中のクネクネとした畦道でした。 女衒や少女時代の好子が棲み暮らした地区は多くは沼地であるのに対し置屋とか枕芸者の棲む温泉街は大川と海が運んだ砂州の外れにあったのです。
つまり女衒の住む市街地の地盤の多くは小さな小島と、それを取り囲む沼で出来ていました。
武士階級は埋まることのない山のすそ野を利用し屋敷を立てましたが庶民は明らかな持ち主の居ない沼地(この辺りは底なし沼 つまり釧路湿原のような湿地帯が多い)に山から切り出した木や竹、或いは土砂を持ち込み埋め立て、そこに掘っ立て小屋を建てて移り住んだのが始まりというような、街と言ってもいわば放浪者の集まり、未開の地でした。
故に年貢米の上りは天候と沼地の水嵩に左右され不安定で、その責めを負わされ城主が頻繁に入れ替わるというような、如何にも世情不安が蔓延するような、生活していくには誠に心もとない地でした。
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知佳の美貌録「女衒の少女と売られた少女の住む街 その変容」

あの枕芸者が棲む街と隣の大きな街とを結ぶ街道、つまり海辺に沿って造られた後に電車が走ることになる街道にほど近い場所にあり敷地面積は小さな児 童 公 園が造成できるほどの広さがあった。
今日ほどではないが、それでも駅前の広い通りを人々は賑やかに行きかっておりそれほどの広さの土地を持ち屋敷を構えるということはそれなりの権力を有していただろうことが駅前という特殊性からも損も広さや家の造りからも窺える。
それに比べ枕芸者、つまり娼婦にさせるべく売られてきた少女が押し込められている置き屋のある地区はかつて、松林が生い茂るただの砂浜。 風が吹いたと言えば家が所々壊れ高波が来たと言えば家が流されやすまいかと心配せねばならなかった。
漁師が海中に湧き出る湯を見つけたと自慢げに口にしたのだ。
その付近一帯を漁場とする漁師が最初に海中で温泉らしきものを見つけたと言い出した。
漁師は素潜りでハマグリを獲ったりイワガキを獲ったりする。 もちろん魚類もだが・・・
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知佳の美貌録「電柱を伝い外に 戻れない橋」

先にも述べたようにこの地は火山の名残りで出来た、まことに小さな(径100メートル未満のような)小高い丘群と、それを取り囲む底なし沼とでできていた。
端的に言えば汽水湖に浮かぶ小島(島嶼群)であった。
この沼地は例えば近代にお百姓衆でもこの地の田を耕すのにトラクターは入れない。 かと言って通常の耕うん機かと言えばそれも半ば違う。
テーラーと呼ばれる水に浮くような軽量の耕うん機を入れてさえ、耕うん(耕す・泥をかき回し草をなぎ倒す)と同時に代搔き(均す)までほぼ同時にこなしてしまうほどなのである。
そうやって準備が整った田に、こんどは田舟に躰を預け胸まで水につかりながら田植えをする。
冷たい水は相当躰に堪えた。 もちろん牛馬を使うことなどできないから堆肥など望むべくもない。 すべてその年上流から流れ来る水に交じる肥えと日照りなど自然の摂理任せになる。
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知佳の美貌録「夫を兵役で失った妻は子を養うため身を売る人もいた」

女衒がどうのこうのと、いかにもすべて女衒が悪いようにこれまで書き連ねてきた。
だが考えてみればこの時代、山奥の百姓の家に生まれたから、食うものはたんとある筈だと言っても必ずしも安泰というわけにはいかなかった。
それなりの土地を所有する家の嫡男(大地主 庄屋)でなければ家を出て食い扶持を稼がなければ、新たに開墾でもしなければ生きてゆけない。
ましてや女は嫁いだ先の家になじまなければ、子を生さなければ追い返され、それだけで生きる権利を失うことになる。
女衒のような商売があったればこそ、これらの女もそれにすがり生き抜いていくことができた。
鬼のように見え仏の面も併せ持つ、いわば閻魔大王のような存在とでもいおうか。 それでも寡婦らには仏様に見えたという。
兵役で夫を失い途方に暮れる妻の悲哀 - 要するに漢っ気を失った女が食いつないでいくため資産のたんまりある旦那衆を世話し春を寿がせ、お互い暴れる性を成就させてあげる。 いわゆるシモの世話や衣食住の差配を彼はこの時代職業としたのである。
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知佳の美貌録「働かない亭主を支え」

後の世になればなるほど廃村や限界集落、或いは廃れていく町の殆んどが山間部の山仕事関係に関わった地区で、こういった町は炭とか建築用木材、或いは薪の一大集積地としてかつて賑わった。 燃料や建築資材のほとんどを山に頼っていた。
だからこそ発展したのであり、村落とはいえだから、女衒の住む街と比較しても当時の人口は遜色なかったのである。
年下の亭主はこんな町の比較的裕福な自転車屋を営む商家であり村会議員の息子でもあった。
つまり苦労知らずに育った漢であった。
日本に石油が導入されるようになると、必要なくなったこれらの品々(山から生産される 例えば炭のような商品)に頼って栄えた集落は仕事を失い住む人もいなくなり今のような有様になっていった。 鉱山なども同様である。
好子が見つけた亭主(仮に幸吉としよう)は現役の高等科の学生。
それも地区では神童と呼ばれるほどの秀才、しかも女衒の棲む街とはお隣の郡部とはいえ女衒・髪結いのような下種な仕事と違って代々議員様の息子である。
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tag : 年下の亭主自転車屋を営む商家村会議員の息子苦労知らず亭主現役の高等科の学生神童鼻つまみ者の穢多将棋最初の夜逃げ
知佳の美貌録「地方巡業中の大山名人にスカウトされた幸吉」

こちら側で機会を見つけ頼み込んだのか、それとも噂に聞く神童の腕のほどを試したくて足を向けたのか。
ともあれ幸吉は名人にスカウトされた。
当時のことだからこの報は、まるで我が町に神童 藤井〇太現るの如くであろう。
その報、自慢話しによれば神童をわざわざ名人が東京からはるばるスカウトに来たかのような騒ぎになったのではないかと思われる。
幸吉が酔うと必ず口にする自慢話しであるからして定かではないが・・・ 地方の多少名士とはいえ、たかだか村会議員とその息子の話し。
近隣近在の嫉み妬みもあったろう。 ともあれ幸吉は名人に伴われ盛大な見送りを受けお召列車 (当時幸吉を見送った人々はこう思った) に乗せられ連れて行かれ東京の名人宅に住み込みの弟子として入ることになる。
当時の将棋界は今と違って テレビなど無いし、性質上大会場で多数の観客を入れ対局など行われない。 従って高収入に通ずることなど滅多にない。 だから賄賂を積まれ大山は女衒の街に来たのかもしれないが・・・
プロと言っても他になにがしかの収入が無ければ食うにも困る。 幸吉の場合、衣食のほぼすべてが仕送りで賄われた。 だから弟子入りした折、議員はたんまりと袖の下を渡したと思われる。
因みに、弟子と言われ出入りする者は星の数ほどいたそうである。
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知佳の美貌録「生涯一度だけの幸せな日々」

高原ホテルの主人公 久美がまだ幼かった頃、女衒は随分没落し女衒の持ち家は本家と散髪屋 (髪結いではない) の二軒だけになっていたようだが、夜逃げの末ここを訪れた久美にはそれでも近所の一般の家庭に比べたら随分と広い屋敷に住んでいたような記憶がある。
女衒家が最盛期だったころ3軒の家を持っていたと書きましたが、上の説明での散髪屋はどう見ても、構造上からも商売に使うだけのため建てられた家であり、3軒のうちの1軒に入っていない筈なので、一般的な民家風の家2軒はこの時点では既に人手に渡っていたものと見てよいとおもいます。
つまり好子が生まれ育った家は久美の記憶にある大きな屋敷よりさらに大きく、好子の話しと統合するとまず当時住むことを許された地区(部落と忌み嫌われ棲み分けされた地区)と位置や雰囲気が多少異なるからです。
今風に言えば産後の肥立ちが良くなるまで実家に里帰りしたことになりますが、その実ちゃっかり居候を決め込んで帰ってきており、元気になっても元いた場所に帰ろうとしなかったのです。
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知佳の美貌録「お気に入りの場所」

その家とは久美の話しからすると造りからいって江戸末期から明治にかけて建てられたと思われ、一般の町屋と異なり農家でしか見かけなくなった大きな縁側があったようである。
近年の建築物は家は外から見た時にその家の表面に柱はほぼ見当たらない。
室内は特に柱が見えないように壁だけの部屋を作るのが近代建築のいわゆる洋風で、柱が見えるように作られるのが和室造り、つまり日本古来の様式なのである。
洋風とはまた細い柱をというよりその面を耐震性を増すよう補強材で補強し壁自体が厚く頑丈に作ってあるからして昔のように無駄に太い柱は必要ないのだ。
断熱効果に優れている一方で壁は外界と完全に遮断された密閉空間を作ってしまう。
欠点は屋内に泥のついたようなものを持ち込めないこと。
自然と一体化 (通気性が良い) できないところにある。
それに比べ古来の建築は太い柱と大きな梁が中心をなし、外部と一体化するような構造体を成している。
つまり家の中に大自然が存在するようなもの。
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知佳の美貌録「工事現場に隠れ潜む日々」

大阪には確かに夢を求め夜逃げできた。 しかし、友人が空き間を貸すだのと申し出てくれたというのは好子の、ろくでなし亭主を思うあまりの早合点だったようなのだ。
実際大阪の友人宅に押しかけてみると好子たち家族4人で借りていた、あの女衒の家に居候するしかない状況に陥った貧しかった借家よりもずっと更に狭い間取りの、しかも賃貸に、その友人という女も含め家族がぎゅうぎゅう詰めで住んでいて、とても好子たちが横になる場所などなかったのである。
お金はあると申し出てはみたものの所詮モノを知らない田舎者のたわごと、それに見合うだけの価格で借りれる家など近隣にはある筈も無かった。
それ以上にその友人宅の暮らし向きも切羽詰まっていて出てくるならせめて土産でも持参するのが礼儀と、幸吉に面と向かって向かって言い放ったものである。
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知佳の美貌録「子守が出来ることの嬉しさ」

労務者は手厚い保護のもとにおかれたが、余計な予算を計上しない(女性蔑視、扶養手当・家族手当など義務化無し)など子供たちにとって決して住み心地の良い環境とは言えなかった。
世間から隔絶された世界で追手を欺き住もうと思ったら、もうこういった場所しか無いと考えた末の飯場(はんば)生活であった。
現場責任者のような役目に据えられた学のある幸吉ならいざ知らず、女衒に育てられ労務者の端っくれに加わった好子である。
今掘られているトンネルがダムと農業・生活用水路をつなぐただの水路なのか、それとも高速道路や鉄道のトンネル坑道なのかもわからない。
それほど奥深い山の中で端っくれにとって意味もわからない工事が行われつつある大規模(精神をも圧倒され、訳が分からないほどの規模の)現場である。
今住んでいるところが何処で人々が行きかう街がどの方角にあるかさえも、さっぱり見当がつかないほどの山中の飯場(はんば)で幼稚園や保育園などというものが、この社会にあることさえ知らず久美たち兄弟と母の好子は隠れ過ごした。
ただ隠れなければならないことだけは親を見れば子供心にもわかったという。
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知佳の美貌録「工事の花形 先破」

トンネル掘削機(シールドマシーン)はそれこそNC旋盤のように必要情報を入力してさえやればトンネルの先端(切羽)を自動で掘ってくれ、その岩石や土砂を胴体内に飲み込み、後方へと排出してくれる一方で、掘り進め出来た空洞に自動的に防護壁を設けてくれる画期的な機械だ。
レール上を機関車のように進むこの機械のエンジン排気は巨大なダクトを使い集塵機によって外に排出され、また燃料消費によって酸欠にならないよう常に新鮮な空気を送り込む巨大な送風機が負けず劣らずのダクトで坑内の隅々まで新鮮な、適度な温度と湿度を保った空気を送り届けてくれる。
だから坑内は地面や壁を除いては、さながらオフィスで働くかの如く環境が整えられていた。
こう書くと良いところばかりに思えるこのマシーンには当時はまだ不安定要素がぬぐえないでいた。
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tag : 飯場トンネル掘削硬い岩盤根性と忍耐シールドマシーン不安定要素がぬぐえない人工的な渓流発破技師ダイナマイト目立ち過ぎ
知佳の美貌録「明日を夢見て 地獄の始まり」

この地区のたたずまいは飯場(はんば)小屋の比ではなかった。
まず第一に借りてくれた部屋の壁が違った。
飯場(はんば)小屋のそれらは多くが組み立て式の軽量鉄骨造りであることから壁も外壁は鉄板で、また、木造であれば杉の板で隙間なく囲ってあったが解体した廃屋をかき集めて作られている賃貸のこの家の壁の板は不揃いで、隙間だらけで見方によっては表と裏が素通しのようなものだった。
一般的な古来の建築法でいうところのぬりかべ(真砂に短く切った藁を混ぜ、水を加えて練ったものを竹で編んだ格子の上に塗った保温・保湿に優れた壁)など材料がそろわず用いられようもなかったのであろう。 ともかく酷かった。
貧民屈とは行き場を失った得体のしれないものの集団。 久美たちは根が夜逃げしてきた幼い姉弟。 なもので始終どこからか見張られつつ寝起きする恐ろしさ。 疲れ切っているはずなのに眠れない日々が幾日も続いたという。
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知佳の美貌録「腹を空かせた弟のために」

それ以前は例えば食用が不足する冬場などに学校にほど近い農家が野菜を持ち込み用務員が温かい味噌汁だけ作りこれを栄養の足しに配るということも試みられていた。
何のことはない、学校に通ってくる子供たちのほとんどがお百姓衆らの子でご飯はなんとか持たせてやれるが家で食べてるものと言えば醤油汁。 味噌は余程の技術がない限りこの時代もうどこの家でも作ることが出来ずたとえそれが味噌汁であっても飲ませてやれなかった。 ましてやお弁当のおかずとなると漬物以外なかった。 子供たちは弁当のおかずに漬物を入れると酷く嫌がる。
結局恥ずかしさも手伝ってお弁当を持たずに学校に通う子もいたからだ。
学校で供される味噌汁には油揚げがたっぷり入っている。 たったそれだけのことなのだがこれが子供たちにとってご馳走に思えた。 冷え切ったご飯も喜んで食べてくれるようになったのだ。
ちなみにこの油揚げと味噌代や味噌汁と作る折の薪代は当時の教員からのカンパだった。
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知佳の美貌録「飢えと孤独 先生のお弁当」

精気が無く追い払うことのできないものだから生き血を啜れるとみてか寝床はおろか着ているものにも蚤やシラミがたかっていた。 そんなみじめな姿を見られるのが嫌で、それでも興味から物陰に潜むようにして辺りを窺い暮らす子供たち。 そのことがますます嫌われる理由となったのである。
明治・大正から昭和中期にかけての日本にはこのような文化を後世に残さねばならないという思想がそもそも存在しなかったのではなかろうか?
それを今回、このブログの文章に見合う画像を探しながら感じました。
きれいごとの写真は確かに数多く存在しますが、庶民生活の片隅を映した画像は公共の図書館とかではついぞ見つかりませんでした。
この物語の主人公の母が女衒の言いつけで使いをさせられた街の歴史書などはあえて作らず、いや、誰かが密かに作ってはいたとしても強制的にある時期、官憲によって廃棄処分にさせられたようなのです。
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知佳の美貌録「覚えてますか?あの日のことを。」

産むだけ産んでおいて育てもらえなかった子供たちはただ生きる為このようなことをやった。 にもかかわらず世の中は大人のエゴで動いた。 ゴミ漁りもそうで、何かを見つけると大人が先にとってしまう。 弱いものの上前を力に証し撥ねる。 暴力は常に付きまとった。
幼くして夜逃げや路上生活を強いられた末に飯場(はんば)で暮らすことになった久美は弟の面倒を看るため、大人のやることは何でも懸命になって覚えた。
少しでも多く大人の役に立ちご褒美のお菓子をもらうとそれを自分はほとんど食べず弟に分け与えた。
その弟と今度は貧困屈でたったふたりっきりで暮らすことを強要される。
久美は保育園・幼稚園こそ通えなかったものの、園で教えているようなことはお菓子を手にいれたく、大人のやることを見様見真似し働いて何かを得てきたものだから必要上ある程度のことはできるようになっていた。 生きる為の基礎ができていた。
未開の地から都会の小 学 校に通うことになった。 無学の地から学校のある地に無理やり引っ越しさせられた久美だが、教えたことを覚えるのが保育園・幼稚園こ通っていたはずのどの子より聡かった。
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