排卵誘発剤で予期せぬ肥満に

彼女の母も五十路の声が聞こえ始めた年齢になって初めての子を孕んでいたものだから、その血を引いた彼女も二股三股であっても孕むことなど無く、ましてやその心配など皆無のまま行為を続けたにもかかわらず、表面上処女を装ってきた。
ところが鰐浦を起点に広まった近親相姦だの不倫だのという問題で、我が身の安全第一を考慮した高橋が部隊を去ると、彼の後輩でもある林田は今度こそ幾世を盗られまいと本腰を入れ事実関係作りに奔走し義理の兄や姉、親にまでテコ入れを迫るようになっていった。 わけても、幾世の父が不治の病で他界すると、子孫繁栄を願う義理の姉はこれ幸いと義理の妹の幾世に排卵誘発剤の処方を迫るようになる。 婚前であるにもかかわらず、林田は泊まり込みで関係を重ね幾世にやいのやいのと受胎を迫っていたからだ。
地元病院の処方では効果が得られなかったとみるや林田は、己もそうなら幾世にも体調不良を理由に長期休暇を取らせ部隊の目が届かない本土に連れ出しどこやらの病院に連れ込んだ。 院内で人工授精のようなことまでやりつつ、ついに結果を出し、意気揚々島に帰って来た。
入院だか通院だか知らないが、結果が出て帰郷となったものだから幾世は、これまでのように関係は持っても義兄の親しい人とシラを切るわけにはいかず、さりとて自分もそれなりに楽しんだからには犯されたとも言えず、半ば強引に籍を入れさせられる。
このような経緯を辿った末に体調が回復したからと、まことしやかな言い回しで勤務に復帰した幾世だったが、休暇中何をやってたかについて女の目だけはごまかせなかった。
一見よそよそしさを装ってはみたものの傍目にもそういうことをやらかした後の林田は自信に満ち溢れており、彼女自身も急激な肥満は隠せそうになかった。
本土に向かう時から帰り着くまで一緒だった林田に、乙女の肥満が如何に大変なことかという認識は、彼女をモノにしたい一心の彼にはなかった。 いつもつかず離れずいてくれた林田にこのような肝心なことを教えてもらえなかったものだから、元々こういったことに疎かった幾世にしてもまるで意識しなかったようなのだ。
しかし実際には40キロ台だった体重が入院だか通院だかを経てる間に60キロを超えるのではなかろうかと思えるほどに肥え太り、腹回りなんかパンパンになって、一見すると可愛らしかった人相までもすっかり中年のおばさんのそれに変貌していた。
これを目の当たりにした浜田は躊躇うことなく転勤願を出した。 美咲と前後し、あれほどここに留まることに固執していたのに、まるで捕虜が解放されたかの如く喜び勇んで島を後にした。
「どうだ、まだあいつが恋しいか」
「えっ?、 何のこと?」
高橋とのことはもちろん、浜田との関係についてもシラを切りとおそうrとする幾世に林田は
「浜田だよ。 お義母さんから訊いたよ。 長い時間電話してたんだってな」
「…そんなこと……ばって……まだ正式に……」
「どうなったら正式と認めるんだ! あの人のことって……」
言いかけてやめたのは林田にも幾世に隠してることがあったからだ。 義兄が島に渡ったのを確認すると底流所兼車庫兼修理工場が義姉宅の近くにあることを良いことに通い詰めていた。
義理の姉は幾世がまだ生まれる前に子が出来ないことを悔いて養女として家に迎え入れた。 その義理の姉が結婚することになり、育ててきた子を手放す寂しさから、つい母親は魔が差し、誘われるままに近隣の漢連中に身を任せた。 義理の姉が嫁いで間もなく妊娠を知って幾世の母は慌てたが、生涯一度でよいから子を成したかったものだから不貞があったことを隠し通し生んだ。
そのことをご主人は知らなかったが、嫁入り前で多感だった義理の姉は知っていた。 知っていたから林田とのことも自分に亭主の矛先が向く前に義理の妹を使って争いを未然に防いだ。 婿ともなれば、機会を見つけいつか逢瀬を重ねることが出来ると踏んで。
幾世にしても高橋や近隣の同年代の漢連中と何度かキワドイ状態に陥っており、躰はすっかり漢を覚えていて、そこに義理の姉が割って入ったものだから久しくご無沙汰が続き飢え始めていた。 だから割行ってもらいさえすれば、漢でさえあれば林田でもなんでもよかった。 それほどに美咲にあてられていた。 何が何でも自分がモテたいと願っていた。 焦りもあった。
「浜田よ。 お前はなんで噂に立つ女を敢えて選ぶ。 お前ほどの優秀隊員が……」
呑むとよく、隊長や上官からこう言われていた浜田だが、そんな女であっても浜田にとって手を離してはならない女に思えた。 二度と脇本商店の女の子のようなめに合わせたくなかった。 それがアダになった。 幾世の中では泊まりに来た漢と深い関係になったとしても、それと恋とは別物という思いがあった。 義理の姉はそれを自分の理に適うべく断ち切った。 自分が使い古した絶倫男を妹に回してやった。
妊娠中毒症様症状のため、かつては超優秀な職員と言われながら幾世は、その職を自ら辞さねばならなくなった。 普通通りの恋愛を経て結婚・妊娠に至っていれば職を自ら辞する必要などなかったが、如何せん職場の誰もが林田や高橋、そのほかもろもろを交えた不純異性交遊をよく知っていたため言い逃れは効かなかった。
年次有給休暇の使用範囲を大幅に上回って豪遊してきたものだから、一方はとりあえず救済処置は取られたものの臨時職員に関してはその限りではなかった。
美咲を追い落とし、してやったりと思ったのもつかの間、今度は自分が更に惨めな事由が発生し退職に追い込まれた。 幾世にはさらなる不運が待っていた。 肉体的交友があった人物の中に好ましくないものが混じっていたのだろう。 医師は、期待に胸膨らませる林田の手前明言してはくれなかったが、彼女の聞き取り調査中、ある程度予感できる事象がありその兆候も確かにあった。 奇形の受胎だ。
果たして生まれてきた子の発育状況は好ましくなかった。 鰐浦の発狂女性などによく見られる脳波の異常が幼少期から垣間見られたからだ。
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