【知佳の美貌録】高原ホテル別版　艶本「知佳」

　ところが当の俊一さんは一昨日あんなに一生懸命美奈さんのために全力を尽くしたのに、それ以降全く声を掛けてくれないどころか姿を見せないことにほんの少し荒れてました。

　本来なら受験勉強はもちろんのことアルバイトだって将来に備え頑張らなきゃいけない時なのに、まるで何も手につかず玄関と自室を行ったり来たりしてたんです。

　両親は彼を大学に行かせるためにふたりとも働きに出てましたが、ご主人はともかく母親までその仕事というものにいつの頃からか出世を夢見てしまい苦学の彼はほったらかしになってたんです。

　小島邸に美奈さんはいつぞや招き入れられ躰の関係を持ってしまっていたんですが川辺家だって似たり寄ったりでご主人も忙しくなるとその日のうちに家に変えたり帰らなかったりするんです。

　お互いの家のことを、特にちゃんとした主婦のはずなのに美奈さんは全く分からず、しかも俊一さんを想い始めたものだから同年代の俊一さんのお母さんがいつも家にいるとばかり思ってあの日のように気安くインターホンなど押せなくなったんです。

　それでそうしたかというと…　

　また何時ものようにネットで声を掛けてくれる人を熱心に探し始めました。　三十路の前半まではそれでもご主人、美奈さんの行動をいちいち気にかけてくれてたんですがこの頃ではどんなにLINEが頻繁に入ろうが電話が鳴りやまなかろうが頓着しなくなったんです。

　お金も使ったからって別に何にも言われないものだから遊び放題遊び、疲れたら家に帰るを繰り返していたんです。

　そんな風にほったらかしておいて二言目には 『この淫売めが』 とやるんです。

　正直愛だの恋だのという時期はとっくに過ぎて、今はもう離婚したら財産分与はどうなるかだけが話題に上ってるような有様だったんです。

　美奈さんは亭主が何時家に帰るかについては長年の感で大体把握してましたがお隣のご夫婦がいつお帰りになるかまでははあくしてませんでした。

　夕方近くまで家でくすぶってた美沙さんは街にネオンが輝くころ家を空け盛り場に繰り出したんです。　誰か見つけてご主人への当てつけにワンナイトといくつもりでいました。

　気がくしゃくしゃしてたこともあって美沙さん、この日に限っていつもとは全く違う場所に繰り出してみたんです。　

　その気になってごくごく普通の主婦らしき格好で出かけて来たものだからすぐに声がかかりました。　美奈さん、焦りも手伝って自分の方から凡そ子の方角にと足を向けたんです。　むろん漢のそうと分かって後ろに従いました。

　そろそろ妖しきネオンが・・っと、目の前をす～っと見慣れた女性が見知らぬ男の人とそのネオン輝くビルの中に消えていったんです。

　美奈さん、これまでと態度を一変させ大股で来た道を引き返しました。　唖然とする漢を振り切ってそのまま真っ直ぐ小島邸に向かい玄関のインターホンを押したんです。

　顔を出した半べその俊一さんの手を掴むと有無を言わさず自宅に引っ張り込みました。

　小島邸では何処に何があるかわかりませんので美奈さん、自宅の滅多に使わない和室に彼を連れ込み川の字に布団を敷いて 「今夜はお泊りお願いします」 と言ってのけたんです。

　ご主人に言わせれば 「お前ほど尻の軽い女は・・」 と来るんですが、今日見た限りでは俊一さんのお母さんだって似たり寄ったりだったようなのです。

　とすると美沙さんが俊一さんのお母さんと同じ年代だからって彼に対し何も遠慮することなんか無いように思えたんです。

　横になって交わす会話はたった一日だけ逢えなかっただけなのに尽きることなかったのです。　その中で 「この距離って遠いよね」 って俊一さんが言い始め 「そう言えばそうね」 ということになって大陸を挟んでお互い旅行をすることになったんです。

　「海に落ちたら死ぬから」 って彼が言うのもだから 「じゃあどうするの」 って聞くと 「国引き神話になぞらえ島を引き寄せる」 っていうことで彼が美沙さんごと布団を引っ張って自分の方に引き寄せtレしまったんです。

　「お邪魔しま～す」 って言うなり躰に手を回され頭を抱え込まれ 「くっついてる方が温かいでしょう」 って言われ…

　不貞のための一回こっきりのお泊りはこうして始まりました。

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